高瀬ナナノの興奮。

高瀬ナナノの興奮。



 ――翌日、

 身支度を整えた二人は、学校に向かうため、揃って家を出た。

 こんな時に、学校にいっている場合かとも思ったのだが、


「私も、ほとんど一人暮らしみたいなものだから、家に帰らない事に関しては、何日か大丈夫だと思うけど、学校を休むとなったら、保護者である祖父に連絡がいくと思うから……」


 とのことで、学校に向かう事になった。

 『学校が世界の中心』である中学生の理論。


 ちなみに、彼女の家は、それなりの値が張る高層マンションで、

 彼女の祖父は、そのマンションオーナー。


 祖父は、最上階の16階に住んでおり、彼女は、その一つ下の15階に住んでいる。

 なぜ、部屋が分かれているかといえば、理由は一つで、

 『いつ、自分の中のコレが暴れ出して、祖父を殺すかわからないから』


 だから、アスカは、なんやかんやと理由をつけ、

 『同じマンション内で部屋と階層が違うだけなら、同じ家内の違う部屋に住んでいると大差ない』という超理論を展開したりもして、

 結果、半一人暮らしを容認してもらった。


 両親を殺してからの数年、

 アスカは、一日たりとも夜遊びなどした事がないので、

 祖父からの信頼は厚く、

 いまでは、特に、連絡などいれなくとも、いっさい文句の一つも言われない。

 ときたま、夜8時ごろに電話がかかってくるくらいで、

 それ以外に、何かうるさく言われることはなかった。


「昨日の人たち……『神話狩り』だっけ? あの人たち……学校にもくるかな?」


「まあ、可能性はゼロやないな。秘密結社を名乗ってたから、人目のおおい学校で悪目立ちするマネはせんやろう、と思いたいけど……どうやら、特殊なフィールドを展開したら、人目を気にする必要もないみたいやし」


 などと会話をしながら、

 門の外に出たところで、






「はぁ?!」






 少し離れたところから、

 そんな、疑問符の叫びが聞こえた。

 若い女のソレで、しっかりと聞き覚えのある声だった。


 反射的に、ウラスケとアスカの二人が、声が響いた方へと視線を向けてみると、三十メートルほど離れた電柱の陰に、

 彼女――高瀬ナナノがいて、

 鬼のような顔で、ウラスケの隣にいるアスカを睨みつけていた。


 ナナノは、ウラスケたちが、自分の存在に気付くと同時、

 ズンズンと肩で風を切りながら、早足で近づいてきて、


「え、どういうこと?! なに、なんで?!」


 と、鼻息荒く、強めの語気で、ウラスケに詰め寄った。


「は? 『なんで』って……なにが? ていうか、なんで、高瀬がここに――」


「私が、ここにいるのは、たまたま! そんなことより、なんで、あんた、アスカと一緒に家から出てきたの? はぁ? なんで?」


「ぁあ……えっと、ちょっと色々あって……」


「いろいろって? 朝、一緒に、二人で、『他に誰もいない、あんたの家』から出てくる理由って?」


「……他に誰もいない家……え、なんで、ウチの家の事情を知って――」


「そんな事はどうだっていい! ちゃんと、答えなさい!」


 目と鼻の先で、有無を言わさぬ強烈な勢いを押し付けてくるナナノ。


「いや……ぁの……」


 ウラスケは混乱したが、

 しかし、グっと奥歯をかみしめて、

 ナナノの目をまっすぐに見つめ、

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