もうやだ。

もうやだ。


「そこらの中3みたいに退屈な人生の中で、『世の中つまんねぇ』って文句たれながら、ダラダラして……『そんな当たり前の権利』すら許されない、おれらの気持ちがお前にわかるか、クソガキ」


「……」


「今のおれたちは、ガチで猫の手も借りたいほど忙しいんだ。あっちこっちで、ネオバグが沸きまくって、朝も夜もクソもなく出動して……殺しても殺してもキリがなくて……」


 虹宮は、ガシガシっと強めに頭をかきむしりながら、

 疲労に濡れている目をウラスケにクギ刺して、


「頼むから、邪魔するな。必死になって、世界のために、命をかけて闘っているおれたちの、邪魔をしないでくれ。お願いだから」


 虹宮が、そこまで言ったところで、

 それまで黙っていた繭村アスカが、

 ポロポロと涙を流しながら、


「もういい……」


 かすれた声で、


「もういいから……殺して……もういやだ……」


 頭をかきむしり、

 かすれた声のまま、


「……ぜんぶ……辛い……苦しい……もうヤだ……」


 溢れだす想い。

 痛みをのせて、

 こぼれおちた、

 その言葉を受けて、

 ウラスケは、


「わかった」


 首を縦に振った。


 繭村の心がキュっとしまった。

 涙がまたこぼれた。

 ツーっと、重力にひっぱられて堕ちる。


 自分の言葉が、世界に受理されたっていうのに、

 喜びなんてカケラもなくて、ただ心を刻まれる。


 激痛。

 全部が痛かった。

 ぜんぶなくした。


 本当に言ってほしかった言葉は、

 本当に叫びたかった言葉は、

 けっして――




 ……なんて、絶望の底で奥歯をかみしめている繭村とは違い、

 虹宮は、ホっとしたような顔をしていた。


 ――ようやく、この面倒なミッションも終わる。

 ――さて、次のミッションは……


 そんな、ズレた時間が、二秒ほど経過してから、


 ウラスケは言う。





「繭村アスカ。ネオバグ関連の問題が全て解決したあと、それでも、死にたかったら、ぼくが、この手で殺してやる」





「……っ」


「約束してやる。だから、しばらくの間、ちょっと黙ってろ。今のぼくは、こいつの対処でメチャメチャ忙しんや」


「……」


 涙があふれた。

 グっと、胸の奥からあふれでる涙。


 大きく見開いた目で、アスカは、ウラスケの背中をジっと見つめる。


 止まらなかった。

 『何か』が、胸の奥から溢れ出て、とまらなくなった。


 声にならない。

 想いが、喉につまって、窒息しそうになった。



 本当に叫びたかった悲鳴は、無慈悲な現実によって、かき消されたのに、

 けれど、繭村アスカの心は、本当に言ってほしかった『救い』に包まれた。


 まだ何も終わってなどいないのに、

 心ではファンファーレが鳴り響いていた。




 まっすぐに前を見続けるウラスケ。

 そんなウラスケをまっすぐに見続けるアスカ。

 ――そんな二人の姿を一瞥してから、

 虹宮は、

 深い溜息をついて、


「ウザいなぁ……中学二年生って……ほんと、もう……はあぁ」


 ボソっとそうつぶやいてから、

 虹宮は、両の拳を握りしめた。


「最後の最後の最終確認だ。答えに変わりはないか?」


「もう二度と聞かんでええ。どうせ、平行線や……」


 ウラスケは、そこで、


「ぼくの全部で、あんたを潰す」



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