ごめんなさい。

ごめんなさい。


「覚悟なら出来とる。どうしてもやる気なら、とことんやったる。けど、そんな不毛な闘いをするより、プラスの対処方法を考えた方が賢明やと思うで」


 などと言われても、

 もちろん、立場上、そんな妥協は認められない二人は、

 返事をすることなく、


「覚悟ならできている、か。簡単に言うじゃないか。地獄の一つも知らないくせに」

「絶望の意味も知らない世界をナメたガキ……後悔の仕方から学びやがれ」


 一言ずつ感想を述べてから、


「それでは、また、近いうちに」

「じゃあな、キ○ガイ」


 そう言い残すと、

 岡葉と味崎は、次元裂を通って、この場から去っていった。

 スゥっと、なでるような風が吹いた。


 残されたウラスケは、天を仰ぎ、


「はぁぁ……」


 と、一度、深い溜息をついた。

 他者と『強い意志を持って対峙する』というのは苦手だった。

 精神をごっそりと削られるから。


 ――数秒ほど、弛緩した空気に浸っていたが、


「……ごめんなさい……」


 ふいに、アスカがそう言ったことで、また、空気が淀み始めた。

 うつむいているアスカに、ウラスケは、慎重に言葉を選びながら、


「なにが?」


 そう尋ねると、


「さっき……とりみだして、みっともなく、甘えたような、無様を晒してしまって……ごめんなさい」


「それは、もしかして、『助けて』って発言の事を言っているのか?」


 ウラスケの問いに、アスカは小さく頷いて、


「私は、やっぱり、死んだ方がいいみたい……」


 泣きそうな顔で、そう言ってから、


「自分ではどうしても自分を殺しきれない。覚悟がない訳じゃないけれど、物理的に不可能なの……けど、どうやら、あなたはとても強いみたいだから、きっと、私を殺し切ることができると思う……だから……」


 そこで、アスカは、ウラスケに対して、

 スっと、土下座の姿勢をとって、


「私を……殺してください……お願いします」


 その姿を見て、ウラスケの額に、青筋が浮かんだ。

 ブチ切れている表情。

 ウラスケの中で、怒りが膨らんだ。


 言葉に変換し切れない強い怒りを、グっと飲み込んで、


「くだらん事を言っとらんで、事情を説明せぇ」


「……」


「あいつら、ネオバグがどうたら言うとったけど……それはなんや?」


 アスカは、数秒、黙ったが、

 今のままでは、先には進めないと判断し、

 顔をあげて、


「私も、コレについては詳しく知らない。詳しくというか、実際のところは何もしらないの。名前だって……さっき、初めて聞いた」


「……それで?」


「それで、って……だから、私は、ネオバグについては何も――」


「だからぁ! 『名前も知らんくらい、ネオバグについて詳しくないこと』はもう充分に分かったから! ……分かっとることについて、全部、話してくれ」


「ぇと……」


 それから、アスカは、とつとつと、


「……コレに取りつかれたのは……たぶん、小5の時」


「たぶんねぇ……不確定の理由は?」


「発症したのが、その時からってだけで、もしかしたら、その前からとり付かれていた可能性があるから」


「なるほど。OK。続けて」


「私が、コレを認知したキッカケは……両親の暴力。……私は……虐待されていたから」


「……ぉお……また、ずいぶんとヘビィな話になりそうやな。できれば聞きたくない話やけど……状況的に、耳をふさぐわけにもいかんからな……続けてくれ」


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