追加システム。

追加システム。


「くそ! くそ! くそ!」


 トウシの嘆きは昇華されない。

 トウシは強いが、

 足りてはいない。

 ミシャンド/ラという狂気を超えられる領域には至っていない。


 出口のない迷宮でさまようトウシ。


 そんなトウシに、

 ミシャが言う。


「よくわかっただろう。タナカトウシ。貴様では私には勝てない。私は、まだまだ、貴様のはるか先をいっている」


「……っ」


 トウシは必死になって頭をまわす。

 しかし、答えは出ない。

 いや、答えなら出ている。


 勝つ方法が見えないだけで、

 敗北までの手順ならシッカリと見えている。


「さて……貴様の想定外すぎる超パワーアップのせいで、発表するのが随分と遅くなったが……ここで、特別システムについて伝える」


「特別システム……?」


 そこで、ミシャは、禍々しいナイフを取り出して、


「他者の魂魄を奪って強化できるシステムだ。このナイフを使って、暁ジュリアを殺せ。そうすれば、『ただ龍を喰らうだけ』では果たせない究極のパワーアップが実現する」


「……実に悪者らしい提案やな」


「このナイフによって命を奪われた者は、永遠の闇をさまよう。その絶望を貪りくらうことで、貴様は、より大きなパワーアップを果たすことができる。これは、アリア・ギアスと呼ばれている可能性の自由意思。自らを律する魂の誓い。背負った覚悟の分だけ、魂魄は輝きを増す」


「……魂の誓いねぇ……」


「これまでのイベントによる強化や、先の戦争で膨大な魂をくらったことで、あの女は、そこそこ質の高い肥料になっている。暁ジュリアの魂を喰らえば、大幅に強くなれるだろう。貴様に時間をやる。暁ジュリアの全てを奪え。そうすれば、私をどうにかできる可能性が出てくる」


「……」


 トウシは考える。

 最善の一手。

 現状における最善は何かと必死になって考える。


 もちろん、前提解は既に出ている。

 ――拒絶する。

 即答だった。

 考えるまでもなかった。


 いかなる状況であれ、トウシにとって、ジュリアを殺すという選択肢はない。

 だが、ならばどうする?


 また、迷路にはまる。

 前提ばかりがジットリと重たくて、

 一向に答えが出ない大迷宮。


 全身に、ベッタリとした汗が溢れた。

 知恵熱が、身を焦がしているみたい。


 そんなトウシの背後に、

 ジュリアが近づいてきて、


「何をしている、バカ男。考える事なんて何もないだろ。さっさと、あたしを殺せ」


 そう声をかけてきた。

 言葉が耳に届いたと同時、

 トウシは、こめかみに、怒りマークを浮かべて、


「だまっとれ、バカ女」


 『心底うっとうしい』という、本音の感情と共に吐き捨てた。

 だが、ジュリアは黙らない。


「アリア・ギアスとかいうシステムが本当なら――背負った覚悟の分だけ強くなれるというのなら、あんたは、私を奪うことで、大幅にパワーアップできる。きっと、神様にも勝てるくらい」


 基本的に、暁ジュリアは、『トウシから本気で命じられた事』には黙って従う殊勝な女。

 だが、この時ばかりは、素直な女ではいられない。


 かたくなな彼女の発言に対し、

 トウシは、語気を強めて、


「うぬぼれんな、カスが。お前を殺すぐらいで、神様に勝てるか。神様、ナメんな。つぅか、黙れ言うとるやろ。何度も言わせんな」


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