『転』。

『転』。


 アダムは、優雅にアクビをしながら、


「貴様程度が私の相手になると思うか? 『この上なく尊い神の王』の側仕えである、この私に、貴様のような虫が――」


「勝てるかどうかなんざ知ったことか! このまま試合を続けたら、間違いなく死ぬ! 5倍にされたら、虹宮の球では通用せんし、こっちのバットはかすりもせん! 終わりじゃ、ぼけぇ! どうせ死ぬなら、その御綺麗(おきれい)な顔面にキズの一つでも残して逝ったらぁ!」


「嘆かわしい。この程度の安い絶望で、こんなにもあっさり切れるとは。『上』も貴様にはガッカリしている様子。もう少し粘り強い人間かと思ったが――」


「知るか、ぼけぇ! おどれらの評価なんざ――」


「残念だが、報酬ランクを一つ下げさせてもらう。まったく、もったいない事をするガキだ。アホウのように切れたりせず、黙って堂々と『この試合』に勝っていれば、『全員脱出』という権利を得られたというのに」


「あー、そー! そりゃ、残念! とでも言うと思ったか、ぼけぇ! どうせただの嘘やろうが! この鬼畜どもがぁ!」


「事実だったんだがな……まあ、どうでもいいか。どっちみち、すでに報酬ランクは下がっている。もう、何をしても戻らない」


「だから、知るかっつってんだ! どっちみち――」






「というわけで、難易度を少し下げる。相手チームの強化はそのままだが、貴様らのチームには『トランスフォームを積んだ携帯ドラゴン』を一つ貸し出す。自由に使え」






 それを聞いて、トウシは、


「……ぇ……」


 一瞬だけ戸惑ったが、

 すぐに、その優秀な頭脳は、

 『意味』を理解した。


 ――だから、


「ひ、ひひ……」


 驚異的な演算速度で未来を貫く。

 さきほどまで、モノクロだった世界が、驚くほど鮮やかになっている。

 ――トウシは、突き抜けたような笑顔で、ニタァァっと笑いながら、


「確か……相手チームは、今後、スペック五倍で、かつ、5アウト&常時満塁制が導入されるんやったっけ?」


「ああ」


 そこで、トウシは、肩のストレッチをしながら、


「難易度、もうちょっと上げてくれてもええで。10アウト制でもOK。そんかわり、報酬を『最高』に戻してくれ。これ、一生のお願い」


「不可能だ」


「……ちっ……まあええわ。とにかく、『トランスフォームつきの携帯ドラゴン』を一つ貸してくれるんやろ?」


「ああ」


「OK。ほな、さっさと試合再開しよか」






 ★






 貸し出された携帯ドラゴンを受け取ると、トウシは、


「ワシが使うで。文句あるやつおる?」


 当然だが、一人もいなかった。

 トウシは、迷わずに、



「トランスフォーム」



 サクっとドラゴンスーツを身にまとう。

 変身完了直後、両手をググっと握りしめながら、


「エルメスを着た時よりは、体がだいぶ重たい感じやな……ウチの子と比べれば、かなり低スペックってこと……まあ、でも……」


 ニっと笑い、


「全然、充分」


 言いながら、トウシは、虹宮に、


「虹宮。キャッチャーやってくれ。ここからはワシが投げる」


「うん……それはいいんだけど、大丈夫?」


「なにが?」


「トウシくん……バッセンでキャッチャーの練習はしていたみたいだけど、投手の方は……どんな感じなの?」


「野球で一番大事なポジションは間違いなく投手。せやから、当然、ワシも、自分の体を使って『投手の練習方法・成長理論』を一番多く実験をした……あとはわかるな?」

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