両手に花。

両手に花。



「ちょっと見た目が小マシな女をみたら、いつもコレだ。クソが」

「いつも? はぁ? なんの話をしてんねん。ワシ、この十数年という、虫視点で言えば恐ろしく長い人生の中で、お前の以外の女と話した事なんか、数えるほどしかないぞ」


「事実なんかどうでもいい。『たまにそういう夢をみる』と言っている。そして、それがたまらなく不愉快だと言っている」

「ユメェ?! はぁ?! アホか、お前」


「夢だろうと何だろうと、あたし以外の女と喋るな、このクソ虫が」

「……ふ、ふざけた事ぬかしやがって。ほんまに、情緒がイっとんな、ワレ……」


 また深い溜息をついてから、


「あの三つ編みの、『願いが叶うどうこう』に関する気合いの入り方はハンパない。まあ、そんだけ母親を助けたいっちゅうこっちゃろ。あの三つ編みの母親がどうなろうが知ったこっちゃないけど、あの徹底した気概には、充分利用価値がある。逆に、敵対する際の鬱陶しさはエゲつない。仮にあいつと闘ったら、あいつは、最後の最後までくらいついてくるやろ。そして、放っておいたら、確実に、今後、闘う事になる。なんせ、ワシは、ほぼ確実にトップをとって『願いを叶える権利』を得るからな。あの女的には絶対に放っておけん相手。わあ、めんどくさい。イヤダワー。――となれば、味方にしておくんが最も合理的」


「ごちゃごちゃ、うっさい。ぼけぇ」

「おどれが色々やかましいから、丁寧に答えたってんねやろがい!」


 何度目かわからない溜息をついてから、


「……なんやねん、ほんま、ハラ立つ女やなぁ……」


 心底面倒臭そうに頭をガシガシとかいていると、

 ジュリアが、強い視線でトウシを睨みつけたまま、


「トウシ」

「あん?」


「あの女の相手は常にあたしがする。関わってくんな」

「……ああ、はいはい。わぁった、わぁった、好きにせぇ」


 面倒臭そうに手を振ると、

 そこで、ジュリアはトウシに背を向けて、

 三つ編みの方まで近づき、


「あたしは、あいつと一緒に、元の世界に帰りたい。それ以外はどうでもいい。『ありとあらゆる意味』で『余計な邪魔』をしたらブチ殺す」


「……邪魔はしません。約束します」


 まっすぐな目でそう言ってから、


「ぁ、申し遅れました、私、蜜波(みつなみ)ナツミと申します。この子は、ツナカンです」

「きゅいっ」




 ★



 トウシたちの様子を中枢で観察していたセンは、


(また、変な状況になったな……トウシ、ハーレムルートか……)


 ボソっと心の中で、


(つぅか、本当にムカつく野郎だ……属性は俺と同じくせに、すべてが俺の上位互換……おまけに、美人の彼女つき……)


 『現状』で言えば、センエースは、すべての『ステータス』で、トウシを凌駕している。

 だが、中学時代限定でいえば、タナカトウシは、すべての領域において、センエースを上回っている。


 『属性』は、間違いなく同系統。

 善く言えば『尖った孤高』

 素直に言えば『陰キャボッチ』


 しかし、トウシは、センと違い、飛び抜けた頭脳と強運を持っており、

 かつ、『青春的リアル』の充実感もハンパない。


 センエースの歪んだ嫉妬心が燃え上がる。


「アダム」


 センが名前を呼ぶと、


「……ここに」


 アダムは、即座に、出現し、センの足下で片膝をついて頭を垂れる。

 そんな彼女に、センは命じる。


「それでは、そろそろ、本格的に、試練をはじめてくれ。徹底的にやっていい。というか、いっさい、手をぬくな」


「かしこまりました」




 ★



 ナツミと共に、エレベーターに乗り込んで、『2階』に上がったトウシとジュリア。


 そこは、


「……似たような感じやな……」


 近くに街があって、荒野が広がっていた。

 一階フロアと特に代わり映えしない光景。


「この先のプランは決まっていますか?」


 その質問に対し、トウシが、サラっと、


「とりあえず、行けるところまで行く。ボスを殺して殺して殺しまくって、殺せんようになったら、ザコ狩りにシフトして金稼いでガチャ回す……かな」


 と、答えたところで、


「いたっ」


 背後から、蹴りを入れられた。

 ふりかえると、不機嫌顔のジュリアが、


「この女の相手はあたしがするって言わなかったか?」


「普通の会話で一々、文句つけてくんな。毎回、毎回、お前を通して話をするとか、そんなめんどくさい事できるか、ぼけ」


「……ちっ」


 舌打ちをしてからソッポを向くジュリアの姿を見て、


「こいつ、めんどくさいわ、ほんまぁ」


 と、文句を垂れつつ、


「……はぁ……うっとうしい、ダルい、めんどくさい」


 彼女の隣に並んで、

 彼女の手をソっと握った。


「……さわんな、気持ち悪い」


 言いながらも、トウシの手を握り返すジュリア。


「ほな、離せ、アホが」


 などと言い合いながら、

 ボスエリアまで、荒野を突き抜ける間、

 『ザコ敵の処理』はナツミに任せて、

 二人は、学校帰りのように、ブラブラと、手を繋いだまま歩いた。


 その途中で、


「あ、そうや。これだけはどうしても聞きたかったことなんやけど」


 と、『ザコ敵を倒しながら前に進むナツミ』の背中に声をかけるトウシ。


「なんでしょう?」

「あの時……『神が使った技』も解析したんか? ほら、あの、『ディザスター・レイ』とかいうやつ」


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