交渉。

交渉。


「私に出来る事なら何でもします。ですから、どうか……私に、あなたの、その強大な力を貸してくれませんか?」


 悲痛の声。

 全力の嘆願。

 何一つ、淀みも歪みもない、まっすぐな懇願。


 その姿を見せつけられたトウシは、

 少しだけ動揺したが、

 すぐに冷静さを取り戻し、


「ぇぇと……さっき、あんた、『自分は人の醜さを知っとるから、誰も信じへん』みたいなこと言うてなかった?」


「正直、私の携帯ドラゴンが一番強いと自惚れていました……しかし、あなたの携帯ドラゴンには何をしても敵いません。この先、私とあなたの差が縮まる事はないと確信できるほどの圧倒的な力の差……」


「いや、だから、ワシのは、一日限定のロマン砲で、ステータスも一瞬上がるだけ系のアレな感じで――」


 この期に及んで、まだ、ウソを貫こうとするトウシの言葉をさえぎって、

 蜜波が、


「お願いします!!」


 悲痛の声を叫び、


「あなたの命令なら何でも聞きます! ですから! どうか……私に――」


 と、そこで、ジュリアが、

 その三つ編みの少女の元まで、ツカツカと近づき、

 彼女の胸倉をガっと掴んで、


「消えろ、ビッチ。二度と、あたしたちの前に顔を出すな」


 動揺を悟られまいとする――けれど、しかし、拭いきれない焦燥が見え隠れする、そんな女の顔。

 それを受けて、ナツミは、静かに頷くと、


「彼の『彼女さん』ですね? ご心配なく」


 ハッキリと、強い視線で、ジュリアの目を睨み返し、


「彼と『どうこうなりたい』などとは微塵も思っていません。私はただ――」


「あんたの意見のなんか聞いてない……消えろと言っている」


「お願いします。どうか――」


「消えろぉおおおお! 喋んなぁあああああ! 二度と、あたしたちの前に、そのウゼェツラ、見せんじゃねぇええええ!」


 と、そこで、

 トウシが、


「はぁああ……もぉ~……」


 と、深い溜息をつきながら、

 ジュリアの肩をポンと叩いて、


「ジュリア、集合。いったん、こっち来い」


「黙ってろ。あんたの命令なんか――っ」


 そこで、

 トウシは、ジュリアの頭をガっと掴んで、

 ムリヤリ、自分の方に顔を向けさせて、そのまま、口と口をあわせた。


「んっ……っっ」


 若干、苦しそうな声を出しているジュリア。

 血走った目でトウシを睨みつける。

 しかし、抵抗はしない。

 表情は怒りを表現しているが、その身だけは、トウシにすべて任せている。

 ――数秒、口を合わせてから、


「ぷはっ……集合っつっとるやろ、はよこい」


「……」


 真っ赤な顔になっているジュリアは、口元をぬぐいながら、


「……ちっ」


 一度舌打ちは挟んだが、しかし、素直に、トウシの後をついていく。


 少し離れた場所まで歩くと、

 トウシは、


「ステータス5000%まで測れる解析能力は相当に貴重。おそらく、というか、確実に『☆X』級のスキル。ぶっちゃけ、生きて帰るんが目的のワシらからすれば、あいつとチームを組んでもデメリットはない」


 おだやかに、冷静に、たんたんと、

 情報を並べて揃えて晒していく。


「チームを組む気とかなかったけど、こうなった以上は――」


「……」


「なんや、その目」


「……ワザと?」

「は?」


「あの女に、ワザと力を見せた?」

「……なんでやねん。なんで、そんなこと――」


「あの女の願いを叶えるため」

「……」


「あんたが、こんなしょうもないミスを犯すはずがない」

「ワシの何を知ってんねん……ワシかて、普通にミスる事もあるっちゅうねん」


「……」


 ジィっと強い疑いの目で見られて委縮したトウシは、

 はぁと、一度深い溜息をついてから、


「……マジでただのミスや。『ゲーム開始直後からボスに挑戦するやつは流石におらんやろう』とマジで思うとった……ただ、あの三つ編みには、どっかのタイミングで、ワシの力をバラそうとは思うとった。それは事実……嘘はない……これでええか?」


「ヤ○チンが……」

「なんで、そうなんねん……」


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