俺は正義の味方じゃない。

俺は正義の味方じゃない。


 リーンの核に触れたことで、己の弱さを飲み込んだゴート。

 吹き荒れるのは、真理を砕く感情の嵐。

 その獰猛で狂気的な『想い』は、無粋な地獄を喰い破る。

 Gバグの『中』を貪(むさぼ)り喰らい、

 想いの象(かたち)を奪い取る。



 ――『狂愛のアリア・ギアス(原初の愛)』、発動――



 深い輝きに飲み込まれて、Gバグは抵抗一つできずに奪われた。

 ゴート・ラムド・セノワールという、

 全てを包み込む『闇』に染められていく。






 ――その光景を、蝉原勇吾は黙って見ていた。






 とてつもなく強大な『漆黒の輝き』が収束しだしたのを確認してから、

 蝉原は、ニっと笑い、


「……かぁっこいぃぃ……」


 そう呟いた。


 ――蝉原の視線の先。

 そこに現れたのは、お姫様だっこでリーンを抱えているゴートだった。

 静かなオーラを纏い、『気を失っているリーン』を優しく抱きしめているゴート。


 その王子様のようなゴートの姿を見た蝉原は、

 ニィっと笑みを強めて、


「やっと、本編のスタート。待ちくたびれたよ」


 静かに、そう声をかけた。

 続けて、


「俺が君を殺したがっている理由。さっき、俺は、それについて、『自分でも特に理由は分かっていない』とか『退屈だったから』とか、色々とふざけた事を口にしたけれど、あんなの全部ウソさ。本当は理解している。ハッキリと。バッチリと。――俺が君を殺さなければいけない理由」


 蝉原は、己の胸に右手をあてて、


「……『完成した君』を殺して、俺は『俺の物語』に最高のフィナーレを飾るんだ。『とてつもなく恰好いい正義の味方』を倒した、宇宙一のヤクザ。俺の物語を締めるために、完成した君の存在はかかせない」


 恍惚とした表情で、イカれた事を口走っている蝉原に、

 ゴートは言う。



「俺は正義の味方じゃない」



 その発言を受けた蝉原は、ゴートの目をジっと見つめ、


「君がどう思うかはどうでもいいよ。『俺が君をどう認識しているか』という、それだけの話だから」


「不愉快なんだよ。俺は正義が嫌いだ。俺は『俺が守りたいと思うもの』を守るだけだ。そんな俺の本気の想いを、『正義』なんていう『おためごかし』に置換されるのは我慢できない」


「面倒臭い男だね」


 蝉原は、やれやれと、首を左右に振ってから、


「俺は、自分のことを、なかなか面倒臭い男だと認識しているけれど、君には負けるよ」


「同感だ。俺に勝てる面倒臭い奴はいないだろう」


 言いながら、ゴートは、リーンをゆっくりと降ろし、

 彼女に対して『いくつかの防御魔法』を施してから、蝉原と向き合う。


「安心していいよ。もう、その子に興味はない。君は、全ての絶望を飲み込んで、『俺が倒すべきラスボス』として完成してくれた。あとは、終わらせるだけだ」


「俺はまだ終わらない。俺には、やるべき事がある」


「やるべきこと……ね。ちなみに、それは何かな? 聞いておきたいね」


 蝉原の質問に、

 ゴートは迷いも逡巡もなく、

 堂々と、

 恥ずかしげもなく、



「世界を救う」



 そう言い切った。


 蝉原は嗤う。

 心底から嬉しそうに、



「くく……やっぱり、正義の味方じゃないか」



 その言葉を最後に、

 粉塵が舞い、

 蝉原とゴートは互いをぶつけう。


 極限を超えた先で踊る両者。

 膨れ上がったオーラは、互いを加速させていく。


 とまらない。

 膨れ上がり続ける。

 魂魄の螺旋階段。


「最高だ! センくん! 君は俺を超えた! これほどの力を持った俺を! 君はこえたんだ! すごいよ! 本当にエクセレントとしか言いようがない! 既に君は終わったのに! 間違いなく死んだのに! しかし、なぜだか君は終わらなかった! 1ミリも理解できない『妙なシステム』を使ってGバグを奪った! ああ! 認める! 君は、最高だ! そのワケわかんない強さ! 君は、確実に、俺よりも強い!」


「妙なシステムとか言うんじゃねぇ……これは、純粋な愛だ……惚れた女を守るためなら何でもする……それだけの事だ」


「気持ち悪いね! 吐きそうだ! けど、まあ、別にいい! 『君を完成させたルート』について、とやかく言うつもりはない! どうでもいい! とにかく、これで、俺の物語は完成する! さあ、コスモゾーンよ! 美しく飾ろう! 最後の5分だ!!」


 叫ぶと、蝉原の全身が赤いオーラに包まれた。

 膨れ上がったオーラ。


 ――絶死のアリア・ギアス発動――



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