二次試験の開始。

二次試験の開始。




 これから二次試験が行われる『ソコ』は、ローマ劇場を彷彿とさせる、収容人数1000人ほどの、かなり大きな半円形ホールだった。

 ようするに、前と同じ場所だった。


 またもや時間ギリギリに、セン・アダム・シューリの三名が会場の扉を開いて中に入ると、そこには、既に、150人近い受験生が客席に腰をかけていた。

 裏から廻って、あいている席に腰をかけると、

 そこで、



「時間じゃな。では、これより、冒険者試験の二次試験を開始する」



 芯の通った爺さんがあらわれて、そう言った。

 前と同じ、張っているわけでもないのに、なぜかよく通る声。


「二次の試験官も、一次に引き続き、この私、メービーがとりおこなう。前置きなどはなしで、サクサクいくぞい」


 そこで、

 メービーは、一枚の魔カードを取り出すと、



「……『明日への扉』起動」



 そう言いながら、ビリっと破り捨てた。


 すると、メービーの真横に、高さ2メートルくらいの扉が出現する。


「この扉の先は『別の空間』に繋がっておる。ようするに、この扉は転移装置ってことじゃな。二次試験を受ける気がある者は、この扉の先へと進め。受ける勇気のないものは、このまま帰るがよい」


 そう言われて帰る者など一人もいなかった。

 ただ、


「……一つ、質問をさせていただいてよろしいでしょうか」


 前の方に座っている受験生の一人が、手をあげて、そう口をひらいた。


「なんじゃ?」


「二次試験における、命の危険度は、どのくらいでしょうか?」


 一次試験でメービーが『敗者復活で容赦なく人を殺しているシーン』を目撃している受験生たちの中には一抹の不安があった。


 この中には、『来年また挑戦しても構わない』と思っている者が何人かいる。

 ぶっちゃけ、『冒険者級の力』を持っていれば、『冒険の書』を持っていなくとも、この世界では充分に余裕を持って生きていく事ができる。

 他にも、『もちろん受かりたいが、【2次まで残った】という証があるだけでも充分』と考えている者もいる。

 そういった者以外にも、

 『既にフーマー大学校で学位を持っているので、冒険の書など必要はないが、なんとなく、人生で一度くらいは受けてみるのもいいかと思って』

 『単なる力試し・暇つぶし・度胸だめし。それ以上でも、それ以下でもない』

 『資格マニア的な思想で、冒険の書が欲しかったから』

 などといった特に大きな理由なく冒険者試験を受けにきた者もいた。


 そんな彼らにとって『命の危険がありすぎる試験』は、なるべく避けたいところだった。

 ちなみにだが、仮に、そんな彼らが、例の一次で落とされていたら、敗者復活には絶対に参加していなかった。


 ――そんな彼らの耳に、

 思ってもいなかった発言が届く。




「二次において、命の危険はかなり低い」




 メービーのそんなセリフを受けて、ホール全体がザワっとした。


「それは、いったい、どういう――」


「詳しい試験内容は中で聞け。ただ、これだけは言っておく。この試験で『絶命する』ということは、ほぼほぼない。よほどのマヌケなら、まあ、死ぬこともありえるじゃろうが」


 メービーの発言に対して、受験生たちは、


(その言葉、はたして本当か、どうか……)

(そうは言っておきながら、実は危険で盛りだくさんという可能性……ありうる)


 と、懐疑的になっている者が大半だった。


 もちろん、この中には、楽観的に『楽そうな試験で、あー、よかった』と胸をなでおろしている者もいなくはない。

 だが、大部分の者達は、『毎年、必ず、一つか二つは、性根の腐ったような試験を仕掛けてくる冒険者試験』に対して不信感を抱いている。


「質問はもう受け付けん。二次試験を受ける者は、さっさと、扉の先へ進め。ダラダラするな。制限時間を設けるぞ。いや、もう、設けると決めた。私が次に、『ここまで』と言ったら終了じゃ。さあ、次にいつ『ここまで』と言うか分からんぞ……って、ぁ、言ってしまった。ということは、終了じゃな。ぬしら全員失格じゃ」


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