P型『センエース』2号。

P型『センエース』2号。


「もちろん、答える気はありますよ、もちろん、ええ、もちろん! 敵対する気とかゼロ! 本当にゼロ! まだ死にたくない!」


「なら、さっさとまとめて簡潔に喋れ」

「われわれはヒマじゃないの」


「……えっと……実際のところ、『ウチの学校に隠されていた秘密のアイテム』を使ったら、すごい力が出せたというだけで……だから、詳しい事はよくわからなくて……」


「アイテム? どんな?」


「魔カードでして……使うと、変身できて……古龍も一発で倒せる力が出せまして……でも、使い切りで、それはもうなくて……だから、証明とかは出来なくて……」


 そこで、バロールが、カティに意識を向けて、


「どう思う?」

「ウソをついてはいない。けど、真実を包み隠さず喋っているという印象は抱かない」

「同意見だな」


「えぇえ! いや、ちょっと待って! ウソ言ってない! 何も隠してない! 俺は全部、ちゃんと喋った! さっきまで一緒にいたやつに確認をとってくれても構わない! もはや、こうなったら、逆に調べてほしい! さっきまで、俺と一緒にいたヤツは……ぁ、えっと、あの……」


 そこで、口ごもるピーツ。

 そんなピーツに、


「ん? なんだ? 言いたい事があるなら言え」


「……えっと、仮に、ここで、『誰々という人が証言してくれます』って言って……で、あなたたちが、その『誰々』から話を聞く時に、拷問とか、調べ終わったら殺すとか……そう言う事はしないって約束してくれます?」


「……」


 そこで、バロールは、一瞬だけ考えて、


「いや、殺す。危険分子はわずかであっても排除する。もし、お前が、ここで何も喋らなくとも結果は同じ。調べて、見つけ出して、情報を奪ってから殺す。われわれは正義の集団というわけではない。むしろ逆。『この上なき巨悪』を望む闇の秘密結社」


「……」


「だが、お前が、正直に吐くのであれば、お前だけは生かしてやるよ。面倒が減るのは歓迎だからな。つまり、これは取引。どっちか選べ。関係者全員死ぬか、お前だけは生き残るか」


 そこで、カティが、


「よかったわね。選択肢をもらえて。実質、一択。というわけで、さっさと、答えて――」



 と、そこで、

 ピーツは、立ちあがり、ナイフを抜いて構えた。



 その姿を見て、バロールは尋ねる。


「……少年、なんのつもりだ?」

「あんたごときが、私達に勝てると思う?」


「勝てない。殺される。あんたらは強い。雰囲気で分かる。ケタ違いに強い。成績最下位の俺がどうこう出来る相手じゃない。間違いなく、俺は死ぬ。そんな事は知っている。俺は賢くないが、バカじゃない」


「なら、なぜナイフを構える?」


「知らねぇよ。逆に教えてくれ。俺はなんで……」


 そこで、ブルブルと震えながら、

 わずかに、涙をこぼしながら、




「なんで、俺は今、あんたらに逆らおうとしているんだ?」




「「……」」


「……『逃げていい』って許しがほしい。『腐ってもいい』って免罪符だけが『今の俺』が望む唯一の証書……」


 恐怖におびえながら、

 顔を歪ませながら、


 それでも、ナイフを握る手だけは力強い。


「「……」」


 そんなピーツをジっと見つめるバロールとカティ。

 二人の、必死で『見極めん』としている視線の先で、

 ピーツは続けて、



「……俺は別に善人じゃない……高潔なヒーローってワケでもない……けど……でも……」



 そこで、ピーツは、グっと奥歯をかみしめて、


「それでも……きっと、譲れないものがあるから……」


 キっと顔をあげる。

 芯がグワっと熱くなる。

 まっすぐな目で、バロールとカティを睨むピーツ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る