命の尊さ。

命の尊さ。



「殺せ、殺せ。笑って死んでやるよ。……ははっ……この死に方は、かなり豪華だから、あの世で自慢できそうだ。『トラックに轢かれました』って最後より、よっぽど華がある」


 そう言ったピーツに、

 亜サイゾーは、




「うーむ……簡単なミッションだと思っていたが、案外難しいな」




 小さくボソっとそう言った。


「これだけ煽っても、『最低限の基礎動作』しか確認できない……これではダメだ。死を受け入れるようでは話にならない」


「あん? なに言ってんだ?」


 ピーツの疑問をシカトして、


「どうやら、『自分の命が危ない』というだけでは覚醒しないようだな……となれば……」


「はぁ? 覚醒? ……いや、俺はサイヤ人とのハーフじゃねぇんだから、そう簡単に、金髪にはなれねぇよ」


「うむ……では……たとえば、『扉の外にいるマヌケを殺してやろうか』と脅せばどうかな」


 などと言われて、

 ピーツは眉をひそめ、


「いや、あの……お前が何をしたがっているのか、さっぱり分からないから、どうとも言えないが……とりあえず『あんなクズデブがどうなろうと知ったことか』とだけ言っておく」


「だろうなぁ……」


 頷いてから、


「では、仕方がない。こうしよう」


 そこで、亜サイゾーは、

 右手を上に向ける。


 すると、その手に、


「……すー……すー」


 と、眠っている小さな赤子が出現した。

 産まれて半年も経っていないであろうピカピカの新生児。


 手に赤子を乗せている亜サイゾーは、

 なんの感情もない声で、事務的に


「テキトーに周囲を探してみつけた。『我が子が急にいなくなった事に気付いた母親』が、ずいぶんと錯乱しているな……その映像だ、見ろ」


 空間に映し出されたモニターに『慌てて周囲を探しまわっている母親の姿』がうつった。


 その映像と赤子を交互に見てから、ピーツは、


「何がしたいんだよ……お前……」


 そう尋ねた。

 すると、

 亜サイゾーは、

 またもや、なんの感情もこもっていない声で、

 たんたんと、


「今から、この『矮小な命』をひねりつぶす」


 などと、ふざけた事を口にした。


「具体的に言うと、頭を掴み、ゆっくりとしめつけていく。顔と頭の筋肉が裂け、頭蓋骨が砕け、脳が飛び散る。そのサマを、貴様に見せつける」


「……ギャグだよな。もしくはドッキリだよな?」


「必ずやる。言っておくが、これは、冗談でも演出でもない。この小さな命は、今から、私の手によってグチャグチャに砕かれる。そこに嘘は微塵もない。貴様が救わなければ、この命は終わる。必要な犠牲として処理される」


 そう言われて、

 ピーツは、

 フラットな顔になって、


「……あっそ……」


 と、気の入ってない声で、


「まあ、仕方ないね……弱者の命はいつだって、強者によって奪われる。弱者ってのは、いつだって、そういう世界に産まれた事を恨んで死ぬしかない。それがこの世の定めだ。まあ、今のところ、その弱者のカテゴリーに俺も入っているから、俺は、『そのガキを助ける』なんて高尚なマネはできず、ただただ『後を追うしかない』ってのが非常に残念なポイントだ。まあ、あの世で謝罪させてもらうよ。ていうか、いまのうちに、とりあえず、謝っておこうか。ごめん、ごめん、お兄さんも、君と同じで弱者だから、君を助ける事はできなかったよ。残念、無念。俺を恨んでくれてもいいけど、ただ、立場が逆だったらってことも少しは考えてもらいたいところだね。君なら、俺を救えたかい? そうじゃないなら、俺だけに責任を押し付けるべきでは――」


 マシンガントークに精を出すピーツに、

 亜サイゾーは言う。


「全力で時間を稼ぎ、必死に方法を考えている……というのが、手に取るように分かる。あまりにみっともない姿だ」




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