最終話 『ありがとう』

最終話 『ありがとう』







 一瞬の静寂が訪れた。

 柔らかな風が吹いた。

 ソヨソヨと、センの髪が揺れた。

 雲が溶けていた。

 だから、空は驚くほど青かった。




「……神……」




 誰かがつぶやいた。

 言葉にせずはいられない。

 まばゆい後光を背負う、神の尊い姿を前にして、

 その場にいる『すべての者(シューリ以外。シューリだけは、誇らしそうにセンをみつめている)』が反射的に平伏の姿勢をとった。


 不全を排した最敬礼。

 絶対なる者を前にした。

 だからこその姿勢。


 自然と皆の目から涙が溢れた。

 止まらない。

 溢れて、溺れそうになる。

 嗚咽が聞こえた。

 何が何だか分からない。

 感情が理性を追い越して、

 過呼吸になりかける者もいた。


 そんな中、

 ――この上なく偉大な神は、


「――神の慈悲――」


 指をパチンと鳴らした。

 すると、柔らかな光が降り注いで、

 その場にいたすべての者の涙がピタリと止まった。

 乱れた心が、即座に修復される。

 驚くほど静かになる心。

 おだやかに、整っていく。


「「「「「「「あ……ぁあ……」」」」」」」


 魂すら再生可能な圧倒的な力。

 心をも真に満たす事が出来る究極の回復魔法。

 『センの領域(真・究極超神化6以上)』にまで辿り着いた者にしか使えない、無上の力。


「「「「「「……は……ぁ……」」」」」」


 ――センは、その場にいるすべての者を『満たす』と、




「強くなったな、お前ら」




 温かな声をかけられ、みな、思わず顔をあげ、神の顔を見てしまう。

 『許されてもいないのに、顔をあげるなど不敬だ』……と、即座に、かつ、本気で思うのだが、心を止める事ができなかった。


「頑張ったんだな。伝わってくる。お前たちの想い。お前たちの覚悟。……俺は、お前達を誇りに思う。そんなお前達を傷つけられたから、俺は辿りつけた。お前達を傷つけられた怒り、お前たちを傷つけた者をぶんなぐってやりたいという沸騰……それが、俺をここまで導いてくれた」


 いまだ究極超神化7を解いていない理由。

 それは、きちんと、皆に魅せたかったから。


 自慢したかったワケじゃない。

 それも、ないわけじゃないが、

 しかし、一番の理由は、やはり、



 ――ただ、理解してほしかった。

 自分が、この領域にまで辿りつけたのは『お前たちがいたからだ』と、理解させたかったから。




 ――神の言葉が、みなの心にしみこんでいく。

 流れこんでくる。


「想いだけじゃない。お前たちが強くなったことも、おそらく、俺が辿りつけた理由の一つだ。たぶんだけど、『魂の系譜に連なっている者が~~名以上、自力で壁を乗り越えて神に成る』ってのが、究極超神化7に届くための条件の一つだったんだろうと思う。お前たちが強くなった時、俺は確かに、俺の中での変化を感じた」


 神は、目を閉じて、胸に手を当てて、


「ありがとう。折れずに闘い続けてくれて。これまでずっと、世界の為に、頑張ってくれて。本当にありがとう」


 神の心が伝わってくる。

 神の想いが流れてくる。


「めんどくせぇけど……かったりぃけど……でかい組織のまとめ役なんて、ホントは、やりたかねぇけど……性格的に、ガチで向いてねぇけど……あと、結局、やっぱり、めんどくせぇけど……それでも、けど、やっぱり……」


 そこで、神は、太陽よりも眩しく笑い、


「俺は、お前達を愛しているから、これからも、ずっと、ココ(神帝陛下という地位)にい続けようと思っている。……いいよな?」


 その言葉に、この場にいる全員、貫かれたような顔で口をパクパクとさせる。

 全身が痺れている。

 神の言葉が耳を撫でるたび、体中に快感の電流が流れる。

 生きている意味が、『命』の意味が、100%を超えて理解出来た気がした。



「なんと、勿体ない……なんと……」



 誰かが言った。

 誰が言ったか分からない。

 みな、同じ事を思ったから。

 ブルブルと震えている。

 涙で前が見えない。

 拭っても、拭っても、溢れ出して止まらない涙を鬱陶しく思い、

 必死に心を絞めつけようとするが、それも叶わず、

 みなの顔は涙でグシャグシャになる。


「よくわかんねぇけど……どうやら、まだ、D型とかいう妙な『敵』が残っているっぽい。そいつは、必ず俺が殺す。絶対に、お前達を傷つけさせない……だから、これからも、安心して生きろ。輝く明日を信じて生きろ。どんな絶望が襲いかかってきても、必ず俺が殺してやる。忘れるな。いつだって、お前達の上には――俺がいる」


 神の言葉に、心が震え立つ。

 満たされすぎて、頭がおかしくなったようだった。

 全身の芯の奥から、全てが湧き上がる。

 瞳に活が入る。



 言葉にならなかった。

 謝辞を並べるべきなのだろうと理解はできた。

 けれど、何を言えばいいか、分からなかった。

 どれだけの美辞麗句を並べたところで、この気持ちを表現する事はできないと分かった。


 だから、みな、ただただ、あふれんばかりの決意をかきいだく。

 湧き上がってくる忠誠心が天元突破して、また、一瞬、クラっとした。

 主の威光に泥酔する。

 それだけではダメだと理解して持ち直す。


 そして、主の愛に応える方法を模索する。



 この日、ゼノリカは神を知った。

 遠い、遠い、遠い場所におられる、自分たちの『親』を知った。



 こうして、またゼノリカは進化する。

 神への忠誠心を新たにしたゼノリカは、加速度的に進化していく。

 もっと、もっと、果てなく進化し続ける。




 ……リラ・リラ・ゼノリカ……









『後書き』

ここまで読んでくださって、ありがとうございます!!

というわけで、序盤の最終回ですw

旧センエース神話、楽しんでもらえたでしょうか。

次話からは、新センエース神話のはじまりです。


ここまで面白かった、続きも読みたい――

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