見えてきた。

見えてきた。



「しばらくは、指でなぞるだけで殺しまちゅ。これなら、オイちゃんから『武を学ぶこと』は出来まちぇんよねぇ。さて、オイちゃんと『まともに闘えるようになるまで』に、いったい、あんたは、何回死ぬんでちょうかねぇ」


 と、ニタニタ笑いながら、そう言いつつ、

 また、サクッとP型センエース1号を殺そうとするシューリ。

 しかし、その動きに合わせて、

 P型センエース1号は、


「――少し、分かった」


 そうつぶやいて、シューリのナメた攻撃を、

 柳のように、スっと回避してみせた。


「……っ」


 目を見開いて驚くシューリ。


 そんな彼女の反応を受けて、P型センエース1号は、

 ニっと、黒く笑い、


「……くく……分かってきたぞ。お前の武……」


「はぁ? 武なんて見せてないんでちゅけど」


「別に、丁寧な指導や、ド直球の武を体感しなくたって呼吸は盗める。お前の足運びや神気の運用をみるだけでも充分勉強になるんだよ」


「……」


「おそらく、今のお前は、『センエースとの稽古』をベースにして、『現状』をとらえているだろう。その認識は、不快だから、今すぐにあらためろ。あいつには才能がない。成長チートは、すべて、レベルを上げる事に特化していた。だが、俺は違う。俺の成長チートは、戦闘力を上げる事に特化している……だから、丁寧な手ほどきなんざ受けなくとも、『見る』だけでも充分に盗める……あえていおう。俺は本物より高性能な、真のセンエースなんだよ!」


「なるほど……どうやら、気合いを入れ直す必要があるみたいでちゅねぇ……」


 そこから、シューリは、なるべく『神髄』は見せないよう、

 しょうもない邪道や初見殺しを連発して、

 基本すら盗ませずに殺しつくそうと画策した。


 その動きは、本来の『正道』とはまったく違う横道だったが、

 しかし、それでも、ハンパじゃなく美しかった。


 この領域まできてしまうと、どうあがいてもブサイクではいられない。

 ただの移動でも美しく見えてしまう。

 どれだけ、手ぬかりなく手を抜いたとしても、

 そこには、洗練された美が薫る。


「俺は、お前よりも、まだまだ弱い! ただ、お前はあまりにも美し過ぎる! それが仇となる! お前という領域まで届くための道は、すでに見えた!」

「それは、勘違いというヤツでちゅよ。オイちゃんが立っているココは、そう簡単に届く場所ではありまちぇん」

「だろうな! お前は強く美しい! しかし、だからこそ、俺も輝く!」


 シューリの武は、見る者全てを魅了した。

 圧倒的な美。

 息をのむ高み。

 その場にいる誰もが呆けて、目を見開く。


 ――その途中で、カティが、つい、


「……美しい……」


 ボソっとそうつぶやいた。

 圧倒されている。

 神を見ている目。

 きらきらとした憧憬の目。


 ――今回の騒動で、カティも神の領域に至った。

 壁を超えて、強大な存在の一つとなった。

 だからこそ、より深く理解できる、シューリの美しさ。


 もちろん、『超神にもなっていないカティ』に『シューリの美しさの本質』が理解できるがずがない。

 だが、本質が分からずとも『とてつもなく美しい』という事くらいは分かる。

 カティは震えた。

 あまりに美しさに心が痙攣している。


 そして、その『震え』は、カティだけのモノではなかった。

 誰もが、シューリの美しさに魅了される。

 圧倒的な高み。

 知らなかった世界。

 狂ったように華やかな舞台。



 そんな世界で、P型センエース1号は、泥臭く、美しいシューリにくらいつく。

 みっともなく、かじりついて、必死に武を学んでいる。


 執念のこもったP型センエース1号の泥臭さは、

 シューリの美とはあまりにも対照的だった。

 薄汚れていて、ひどく醜い――が、しかし、


 だからこそ、掴める『解』というのもあって――



「……掴めてきたぞ、神闘……」


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