闘ってあげない。

闘ってあげない。


 そこから、しばらくは、簡素な応酬が続いた。

 ただ、ひたすらに殴り合う。


 ――いや、殴り合ってはいなかった。

 シューリは一発も殴られていないから。


「動きが遅すぎてアクビしかでまちぇん。もっと頑張ってくだちゃいよ」


 P型センエース1号の動きは決して遅くはない。

 ゼノリカの天上が圧倒された『その力』は、絶大で豪速。


 けれど、シューリには届かない。

 『最強神の師』を名乗る女神の力は伊達じゃない


 P型センエース1号は、


「――うぼげっ!」


 殴りかかっても、カウンターをくらう。


「くぬ!」


 タックルしようとしても、いなされる。


「ぅごほっ!」


 蹴ろうとしても、避けられて膝をいれられる。


 戦闘になどなっていなかった。

 ただ、あしらわれる。

 さばかれて、ポカンとシバかれる。


 そんなP型センエース1号の様子を、アダムは冷めた目で見つめていた。

 『もしシューリがヤバそうだったら助けろ』と命令を受けてここにきたアダムだったが、

 今の彼女は、後方で壁にもたれかかり、腕を組んで、のんびりとアクビをしていた。


 シューリの実力を知っているアダムからすれば、

 この展開は予想がついていたというより、目に見えていた。


(その程度の腕前で、よくもまあ、『主上様になる』などという不相応がすぎる大言壮語を口に出来たな。何億、何兆、何京年という時をかけようと、貴様ごときが主上様の領域に届くことはありえない)


 凍える瞳で、P型センエース1号を見下すアダム。


 アダムの耳には、ヒョイヒョイという擬音が聞こえていた。


 シューリは、終始圧倒的だった。

 P型センエース1号は、汗一つかいていないシューリから、

 気楽に、ポンポンと殴られて、

 サクっと痛めつけられて、

 で、最後には、キュっと首をひねられて、



「――ぁっ――」



 ――あっさりと死んだ。

 なんの抵抗もできなかった。

 大人と赤子。

 それ以上の差が、二人の間にはあった。



 シューリにあっさりと殺されたP型センエース1号は、

 また、同じように、淡い光に包まれて、



「ちくしょう!」



 当然のように復活して、


「くそが! やっぱ、強ぇえええ! くそ!」


 と、元気に叫んだ。

 その様子を見て、シューリがボソっと、



「おやおや、まーた、存在値が上がりまちたねぇ……」



 鬱陶しそうにそう言ってから、


「こりゃ、確かに危険な存在でちゅね」


 認識を少しだけ改めて、

 シューリは、瞬間移動で距離をつめる。


「強くなるトリガーは『死んで蘇る事』だけじゃなく、『強い者と闘うこと』でも強くなる……でちたっけ? なら、闘ってあげまちぇ~ん」


 言いながら、シューリは、人差指に神気を込めて、

 ススっと、ゆるやかに、P型センエースの首裏をなぞった。


 直後、スリュっと、何かがズレる音がして、

 気付いた時には、P型の頭部が細切れになって吹っ飛んでいた。


 吹きだす鮮血。

 しかし、そんなものに当たって汚れるシューリじゃない。

 すでに、適切な距離を確保しており、そこで、退屈そうに髪の端をイジイジしていた。


 すぐに、P型センエース1号の体は淡い光に包まれて、



「ぶはっ……はぁっ」



 蘇る。

 完全な状態で復活。

 深く息を吸って、吐いて……


 そんなP型センエース1号に、

 シューリは、


「しばらくは、指でなぞるだけで殺しまちゅ。これなら、オイちゃんから『武を学ぶこと』は出来まちぇんよねぇ。さて、オイちゃんと『まともに闘えるようになるまで』に、いったい、あんたは、何回死ぬんでちょうかねぇ」


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