胸に抱いているもの。

胸に抱いているもの。



「俺は、お前の面倒を背負っていない……だから、その分、俺はセンエースよりも軽い。重りがないぶん、はやく動ける。それだけなんだよ」



「そういうのを『重りがない』とは言わない。『薄っぺらい』という」


「はっ。視点の問題でしかねぇな。あるいは、しょうもない言葉遊び。つまりは、議論する価値がない愚題。もう、お前と喋るの飽きた。そろそろ、本気で終わらせる」


 全力でオーラを練り上げて、まとわりついてくるミシャの邪を払うと、


「見せてやるよ、本物の絶望を。『全ての絶望』を絶望させた『眩し過ぎる光』でお前の全てを飲み込んでやる」


 両手にオーラを集中させる。

 周囲の次元断層を飲み込むほどのエネルギーが収束していく。

 膨れ上がっていく。

 膨張は止まらない。

 円を描く絶望。

 弧の中心で、エネルギーが渦をまく。


「神気の扱い方の上手い下手でも、異次元砲の威力は変わる。当たり前の話。で、俺は既に、お前よりも、遥かにうまく神気を扱える……ここまで言えば、あとは分かるな?」


 実際、P型センエース1号のオーラコントロールは、ミシャを遥かに超えていた。

 圧倒的に濃密な異次元砲を練り上げていくP1。

 間違いなく、ミシャでは対応しきれない強大なエネルギー。


 それを見て、

 ミシャは、



「私は、心の底から、自分という女を誇りに思う。これほどの絶望下においても、私の心は少しも折れていない! なぜか! 決まっている! この上なく偉大な神を胸に抱いているからだ!」



 そこで、ミシャは、

 動けなくなっている全員に向けて、



「きさまら! その程度の呪縛で折れてんじゃねぇええ! 思い出せ! きさまらの胸にいるのは誰だ!」



 ミシャの叫びで、みなの心に熱がともった。

 まだ、間違いなく残っている炎。

 神を抱いている者の光。


「この程度で折れるなぁあ! ゼノリカを名乗る事の意味を思い出せ!」


 炎が再燃したのは、周囲の者だけではない。

 己の叫びに呼応して、ミシャのオーラが膨れ上がっていく。

 積み重ねてきた全てが、『P型センエース1号』という『キッカケ』をえて、相互にガッチリとかみあっていく。

 絡み合って、強固になっていく。


 そんなミシャの様子を見て、

 P型センエース1号は、不愉快気に顔をゆがめて、


「っ?! おいおい、なに、気合いだけでコアオーラを増量させてんだ。『叫ぶだけでオーラが増える』っていう、そのギャグは、俺(センエース)だけの専売特許。無断使用してんじゃねぇ」


 そう言うと、P型センエース1号は、両手に集中させたオーラをミシャに向けて、


「ミシャンド/ラ……お前はちょっと目ざわりが過ぎるな……もったいないが、コアだけ残して、『器』は破壊させてもらう」


 スウッと息を吸って、



「異次元砲ぉ!!」



 強大なエネルギーの照射。

 既にボロボロのミシャでは受け止められない威力。

 それを前にして、

 しかし、

 それでも、

 ミシャは!




「異次元砲ぉおおおお!!」




 迷わずに撃った。

 波動が世界に干渉する。

 多次元に不良再生性の傷跡を残しながら、

 深き衝撃は、ぶつかり合う線の向こうで、無情な波となる。


 バチバチと、空間を裂くような音が響いて、

 互いの照射が押し引きをしている。

 あまりに膨大なエネルギーのぶつかりあいは、

 当然のように、周囲の断層に亀裂をつくる。



 P型センエース1号は、絶対の自信があった異次元砲を受け止められて、

 普通にムっとしていた。


 イラつきを飲み込んで、

 異次元砲へ注いでいる魔力やオーラをさらに増大させながら、


「……おいおい、どこに隠してたんだよ、その魔力……」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る