教え。

教え。



「おいおい、なに驚いた声だしてんだよ。何度も言ったはずだぜ? 俺は強すぎるって」


 そう言ってから、モンジンは、『ジャミの目程度では捉えられる訳がない、超越したブレイクダンス的な動き』で、ジャミの足をはらい、叩きつけるわけでもなく、優しく地面に転がした。


「っ!」


 仰向けに転がされて、気付けば空を見つめていたジャミ。

 自分の身に何が起こっているか、一から十までまったく理解できていないジャミが、深い困惑の底に沈んでいると、

 モンジンが、そんなジャミの顔を上から覗き込んできて、


「やれやれ、俺の前でお昼寝とは、豪胆なやっちゃなぁ。超神でも出来ないマネを平然とやってのける。そこに痺れる憧れる」


 などと、ふざけた事を言ってきた。



 ――そんなモンジンに、オーラの塊が飛びかかった。

 バロールが、横から、豪快な飛び蹴りをかましてきたのだ。


 凄まじい速度だったが、モンジンはヒョイっとなんなく避けた。


 その一連を受けて、バロールは、


(……なるほど……)


 理解する。

 と同時に、このガキに対する認識を180度一変させる。


「お前も第三勢力だったか……見事に騙されたよ。実に演技派だ」


「騙す? おかしな事を言う。俺がお前らに対し、何か、一つでも嘘をついたか?」


「……ふっ……」


 バロールは、鼻で笑いながら、ゆったりと構えつつ、


「定義にもよるな」


 ボソっとそう言ってから、モンジンに殴りかかった。

 最小の動きで、鋭く、速く。

 だが、モンジンの動きは、その一歩上にあった。

 最短の動きで、儚く、ゆるやかに。


 それを見て、バロールは、また、モンジンを理解する。


(尖った『回避タンク』タイプか……)


 この手のビルドは珍しくない。

 というか、カティがモロにそれ。


 そこで、ジャミが、参戦してきて、


(この少年、さばきはカティ級だが、火力はまったくない! 不利は無視して強引に押しこむぞ、バロール!)

(カティ級とは……随分な高評価をかっさらうガキじゃねぇか……第三勢力ってのは、まさか、本当に、ゼノリカに匹敵する力を持ってんのか?)

(さぁ、分からない。しかし、この少年を落とせなければ、『ゼノリカが、私達のせいで侮られることになる』という事だけは分かっている!)

(それだけは、絶対にゆるせねぇなぁ!)


 ジャミとバロールの二人がかりでモンジンを押し込もうとする。

 だが、


「二人で闘っているからといって、無理に、点と点を会わせなくてもいいんじゃないか?」


 モンジンは、いつまでも、どこまでも軽やかに、二人の攻撃をサバき続ける。

 なんなく、容易く、まるで幼児用のヌルゲーでもやっているかのように、


「オーラの流れに意識を傾けすぎだな。中級者にありがちのミスだ。たまには、目に映るものだけに注意を向けてみるのも悪くはない」


 モンジンの動きは、常にフラットというか、

 微妙に『脅威ではない』というレベルで一貫している。


「こだわりは大事だが、とらわれたら本末転倒……という観念にも、気付けばとらわれちゃっていたりするから、魂の指向性ってのは、本当に厄介だよね♪」


 回避タンクとしての性能は見事だが、火力はまったくなく、

 特殊な受け攻めもなく、ずっと素直に一直線のままで、


「力とは、蔵(ぞう)を象(しょう)にするため、技とは、流(りゅう)を疏(そ)とするため。では、心とは、何を何にするため?」


 なのに、届かない。

 なぜか、届かない。


(かみあわない。すべてが……なんでだっ)

(残り10分……まずい、焦りのせいか、一手一手が雑になっている……このままでは……)



「焦りは伝染する。不運は感染する。ノイズは気付きを殺していく。さあ、そのスパイラルから、抜けだせるかな、ボウヤたち」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る