『世界の王』を目指した男。

『世界の王』を目指した男。


 UV9は、そこで、指をバキバキと鳴らして、ニィと笑い、


「言葉だけでは完全な絶望には届かない。わかっている。だから、最後の締めは、私自身がこの手で担う」


 魔力を放出するUV9。

 その圧倒的な力を前にして、モナルッポの気血が冷たくなる。


(こ、ここまでケタ違いか……っ)


 フェイクオーラを切っているUV9の力は、モナルッポのサードアイによく映る。

 大きく膨らんでいくUV9の存在値。


 存在値250にまで上昇したUV9の力は、モナルッポの視点だと、文字通り、概念通り、観念通りの、真なる神の領域。

 モナルッポでは、どうあがいても勝てない圧倒的な出力。


 ――だが!


「キッツ! 走れぇええ!」


 折れなかった!

 世界の王を志す者としての『責任感』が、彼の背中を押した!

 モナルッポは、無意味な権力が欲しくて世界の王を目指したワケじゃない!

 自分は王に相応しいと信じる事ができた!

 それだけが!

 世界を背負って立つと決めた理由!


「俺がこいつを止める! 死んでも止める! だから、なんとしても、逃げ切れぇ!」


 叫びながら、モナルッポはオーラを練り上げていく。


「モナ様?!」


「行けぇ! 逃げるんだ! そして、フーマーに伝えろ! 人類の危機だ!」


 練り上げられたオーラに電流が走る。

 世界最強クラスの力を解放する。

 絶対に世界最強にはなれないけれど、

 勇者と魔王さえいなければ、間違いなくぶっちぎり世界最強の力。


「はぁああああああ!!」


 まだ、膨れ上がっていくオーラ。

 モナルッポは、勇者と同じく、ありとあらゆる分野に長けた天才だが、

 全てにおいて下回っている『劣化版』でしかなかった。


 『勇者の劣化』のままでは、王としてふさわしくない。

 だから、モナルッポは、勇者には出来ない『ベクトル』で『自分』を構築した。


「このモードでは長時間闘えない! さっさと行けぇえええ!」


「っ……かしこまりました!」


 両足に魔力をぶちこんで、ダっとかけてゆくキッツの足音を背中に感じながら、モナルッポは、


「このモードで闘えるのは三分! ただし、全能力が爆発的に向上! この三分間だけ、俺は勇者よりも強い! 三分後、俺は15時間ほど動けなくなる!」


「暴露のアリア・ギアスを積んでさらに能力向上、と。で? まだ何かする? やりたい事は全部やってくれていいよ。その方が、上質な絶望になる」


「ナメやがって、このバケモノめっっ!」


 叫びながら、モナルッポは、腰に携えているナイフを抜いて、自分の腕にキズをつける。

 肘から手首にかけて、十文字ほど、神字と呼ばれる特殊な魔法文字を刻みこむと、


「王としての責務を果たす! いくぞ、異界のバケモノよ!」


 腕が光り輝く。

 刻まれた神字の軌跡が繋がって、モナルッポを輝かせるコードとなる。


 覚悟を決めて立ち向おうとしているモナルッポを見て、UV9は思う。



(この現地人、悪くないね……愚連に入隊させるべき逸材。ことが終わったら、推薦書を書いてあげようかな)



 コソっと査定されている事になど、とうぜん、気付くはずもないモナルッポは、自慢の長剣を抜いて、魔力を込めながら、UV9に切りかかる。


 『剣気』の魔法にブーストがかかる神字の効果により加速する一刀。

 極端に上昇した肉体能力。

 複数のアリア・ギアスを乗せて、積み上げてきた努力の成果を見せるモナルッポ。


 パラソルモンで成長した勇者ですら、今のモナルッポをしとめきる事は出来ない(モナルッポが勇者に勝てるとは言っていない)。


 そんなモナルッポ渾身の一撃を、


「――ステータスと気概はそこそこだけど、戦闘力が低いかな。まあ、仕方ないけど。同格が少ないエックスに生まれたら、そっちの経験はなかなか積めないからね」


 UV9は、その場から一歩も動く事なく、片手であっさりと受け止めた。


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