10秒ルーム。

10秒ルーム。


 噴き出したカティを、鬼の形相で睨みつけるバロール。


 仲が良いのか悪いのか、

 ほがらかなのか、殺伐としているのか、

 そのへんがイマイチ灼然としない、そんなフワフワとした空気感に現場は包まれていた。



 家族・友人・ライバル・同僚・戦友。

 多くの濃厚属性が、八方にとっ散らかり過ぎて、少し混ざるだけでも、妙な具合でごっちゃになる九華の面々。

 カティも、バロールも、それぞれが統治している『自分の世界』では、『完全で絶対的な超越者』なのだが、この場においては、その威光が、見る影もなし。




 ――実際のところ、バロールの根性・精神力は、常人の中だと、『異質・人外』と呼ばれるレベル。

 10秒ルームの過酷さはハンパじゃなく、バロールが言っていたように、『根性の塊が集結している楽連の面々』であっても、10時間以上耐えられる者は少ないというレベル。


 ちなみに『10秒ルームをどれだけ耐えられるか』の大きな要因は、もちろん『事前準備がどれだけで出来ているか(自動回復系のスキルを積んだり、十秒以内に倒せる燃費のいい火力を用意したり)』だが『その下地を整えた上での先』を求めるとなると、あとは、本当に根性量だけが指針になってくる。


 10秒ルームでは、『挑戦者のスペック』を計算したうえで『ギリギリ10秒以内に倒せるモンスター』が出現し続ける(最初の数分だけ、調節用に、楽に倒せるザコが出てくるが、挑戦者のスペックが正確に測定できて以降は、常に、『ギリギリ十秒以内に勝てるモンスター』が出現し続ける)。


 つまり、存在値が高ければ高いほど長時間耐えられるというワケではない。

 挑戦者が神のように強ければ、神のように強いモンスターが出てくるだけだから。


 ちなみに、この手の訓練施設は昔からあって、かつては、たんなる『根性だめし』だった(あんまりやる意味がない。なくはないけど、効果は微妙なネタ部屋だった)。


 が、世界進化後の要素がぶちこまれた『この10秒ルーム』だと、『ありえないほどキツくなった』かわりに『魂魄を回収する事ができるようになった』ので、『基礎訓練として必須』といっても過言ではなくなった(ちなみに、ルーム内での魂魄の回収は、長時間耐えれば耐えるほど、ボーナスがつく仕様となっている)。



 時間圧縮つきなのも嬉しい。

 短時間で、凄まじく濃密な訓練ができる。

 ただ、このルームの場合、『何時間訓練しようと、外から見れば一瞬』というワケではない。

 時間圧縮の倍率に応じて、身体・精神にかかる負荷が増していく仕様になっている。






 ※ 情報を追加しておくと、『遅れて合流したバロール以外の面々』は、すでに、10秒ルームに何回か挑戦している。

 なんにでも『慣れ』というのはあるもので、たいがい、1回目よりも2回目、2回目よりも3回目の方がいい記録が出ていた。

 傾向と対策を掴んで、装備品を変えたりした者も多い(ていうか、全員)。


 ちなみに、カティの一回目の記録は390時間。

 バロールの初回記録よりも大分低い。


 ここにいる誰も、その事実に触れないのは、『バロールを、より奮起させるため』。

 『自分が一番下だとなれば、誰よりも頑張るだろう』という周囲の配慮。

 九華に属するもので『周囲の者を蹴落とそう』と考える者はいない。

 単純に『高潔だから』というのも、まあ、確かに大きな理由だが、他にも、『誰かを蹴落としたところで、自分が上に上がる速度に変化は生じない』という事が理解できているし、『なによりも、ゼノリカという組織全体の向上こそが最も重要な命題である』と認識しているからである。


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