センエースは、

センエースは、


 センエースは、他者に対して無茶な注文はしない。

 出来ないことは求めない。


 かつて、出会ったばかりのころ、センは、アダムに対して、こう言った。


『何か、御不快な事がございましたら、どうか、このわたくしめに対処を御命じくださいますようお願い申し上げます』


『ん……いや、ダメだ。何もするな。下手に動けば余計にこじれる。ここはスマートに行きたいんでね。俺が直々に、『テキトー』な処理をしておくから、お前は絶対に動くな』

『――理由を言っておいてやろう。なぜなら、お前では、これらの完璧な対処は不可能だから』

『――心配するな、アダム。これは、『俺にしか出来ない』――それだけの事。どうだ、ヘコむ必要があるか?』




 あの時は、『優しい配慮』があった。

 だが、今はない。


 その理由は一つ。

 センがアダムを『高い次元』で認識し直したから。

 それはすなわち、『アダムならば不可能な事など何もない』と認めたという事。


(なんと……おそれおおい……)


 アダムの承認欲求が一気に満たされる。

 同時に、また、別の責任感が産まれる。


 『ただの手下その1』で満足するのではなく、

 『本物のパートナー』を目指す旅がはじまる。


 終わりなき、『愛』のサイクル。

 決して枯れない『想い』の無限循環。

 『私達は出会えたのだ』とまた強く実感する。




「――さて」




 そこで、センは、かしずいている三至に視点を移した。

 そして言う。


「すごいな、お前ら」


 心の底からの称賛。

 そんな、身に余る栄誉を賜り、三至の全身は恍惚に支配される。

 歓喜の絶頂。

 脳が痺れる。


 『師』は、出会うたびに大きくなる。

 その尊さは、遥か昔から『誰も届かぬ無上の域』に在ったというのに、

 いまだ、とどまることを知らず、無限に大きくなり続ける。


 この光の下で、永遠に平伏していたいと願ってしまう。

 『全てを賭して尽くしたい』と魂魄の芯が叫んでいる。


 それほどの神から、三至は、言葉を賜る。



「俺は今、猛烈に感動している」



 古い定型文を一つおいてから、センは続ける。


「俺が知るお前達では、アダムを倒すことはできない。俺が、『このぐらいだろう』と勝手に推測していたお前達の実力では、どれだけのハンデをもらったとしても、絶対に、アダムには勝てなかった。――だが、お前たちは勝った」


 そこで、センは、


「弛まずに、積み重ねてきたんだな。俺の目が届いていない間も、緩まずに、ひたすらに」


 ゆっくりと頷いて、


「俺はお前たちを誇りに思う」


 師の言葉が、三至の魂魄に浸透していく。

 体が、心が、魂の芯が、全てが歓喜している。



 歓喜の底で、ゾメガの心に想いが溢れた。


(……なんと、大きな光……)


 初めて出会った時から、師は、すでに、他とは一線を画したまばゆい輝きを放っていた。

 センエースという光は、『最果てに辿り着いた』と勘違いしていた『かつての愚かな自分』を、またたくまに追い越していった。

 気付いた時、ゾメガは、必死になって、その大きな背中を追いかけていた。

 『センエースという王』を追いかけ始めたあの日から、ゾメガの『本当の命』が始まったと言っても過言ではない。


 追いかけて、追いかけて、追いかけて、

 ついには、師と同じ、『神』という超位の生命となった。

 『これで少しは近づけた』と思っていた。

 『いつしか見えなくなってしまった背中』を、今なら見つけだす事も出来るのではないかと自惚れていた。


 なんという間違い。

 大きな誤り。


 師は、自分の想像など遥かに超えていた。

 もちろん、『正確には見えない』が、神になったことで、師の『遠さ』を感じる事くらいは出来るようになった。


 神の領域に立ち、膨大な力を得て、初めて理解できる、師の大きさと己の小ささ。

 理解できるようになった『師と自分の間にある距離』は、あまりにも遠かった。



 第2アルファの超魔王。

 ゼノリカの剛魔至天帝。

 どちらも、一つの『高み』、途方もないステータスであることは間違いないのだが、

 『師の教えを受ける者』という地位と比べれば、どちらも霞んでしまう。


 ゾメガは、ゼノリカという器を愛しているが、

 それも、すべて、『師あってこそ』なのだと、不必要な再認識に浸る。


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