理由。

理由。



 ゼンは、頭の中で、ゼノリカという組織に抱いているイメージを再構築する。

 知っている情報を、ならべて、そろえて、


(アビスですら下っ端の下っ端という巨大な組織体系。『エグゾギアを使っている時の俺』がゴミに思える『圧倒的なエグゾギア使い』ですら最弱扱いという『イカれた秘密部隊』。さらには、それをも凌駕する五生命王……その上にいる、超魔王、暗黒超勇者、邪悪の化身)



 普通にイヤになった。

 やってられねぇ。

 いくらなんでも、相手が悪すぎる。


(勝てる訳ねぇ……)


 さっさと降参するのが最善手だと理解できている。


 すべて理解した上で、

 正しく認識した上で、


 ゼンは、フッキの問いと、冷静かつ真剣に向き合う。



 ――それでも、ゼノリカに抗うか?



 『勢いだけで答えは出すな』という、フッキからの注意に、ゼンは素直に従った。


 目を閉じて、

 顕在意識を少しだけ手放す。


 意識の奥へと潜って、自分の答えを求める。


 ここまでに、色々ありすぎて、

 もういい加減、脳も心も体も疲れ切っていて、

 休息や解放を求めている魂の悲鳴がキンキンとうるさくて、



(神様に言われたから……神様を敵に回したくないから……俺にしか出来ないから……)



 いくつかの『言い訳にしやすそうな理由』が、中空意識の中にプカプカと浮かんできて、


(ただの意地……悪とか正義とか……くだらねぇ……)


 拾い集めて、


(結局のところは、ただの厨二……カッコつけているだけの自分……承認欲求……)


 溢れ出て、弾けて、


(違うな……それだけにしちゃあ、俺の中で、あまりにも……ぃや、違う……それも、意味がない言葉だ……ただの装飾……取り繕っただけの……まだカッコつけている……違う。それすらも言い訳……言い訳――)


 ――だから、



(……ああ、そうか……)



 気付く。



(どうでもいいんだ、そんなこと)



 その気付きは、あまりにも明瞭だったため、すぐに、言語化できた。



(将棋の一手目と同じだ。その時点での熟考は無意味。『最初の一歩を踏み出すための理由』なんて、いくら考えたところで、『やらなくていい理由探し』にしかならない)


 ――だから、


 ゼンは、カラッポになって、

 バカみたいに、フッキの問いに答える。





「俺はゼン。ゼノリカを殺す者。それ以外の何者でもない」






 口にしたのは、愚かな無謀。

 まっすぐに、前を見て覚悟を並べる。

 それは、『もう迷わない』という宣誓。



 ――それを受けて、

 フッキは、静かに頷いた。



 そして、闘いは再開される。



 以降、フッキは、大技を使うことなく、『ギリギリを攻めた回避』と『火力の低いカウンター』だけで、ゼンを『はかろう』とする。


 正直、まともな闘いにはなっていなかった。

 今のゼンとフッキでは差がありすぎる。


 まるで、園児と大人の腕相撲。



(た、闘えば闘うほど……差がハッキリしてくるだけ……このままじゃ、何も出来ずに終わる……っっ!)



 焦りに支配されないようにするだけで必死だった。

 冷たい焦燥が、ゼンの形を崩していく。


(何かっ……何か、方法……この閉塞を殺す一手……打開策は……っ)


 気付けば、混乱や酩酊に近い状態に陥る。

 まだまだ発展途上の『たどり着いてはいない精神力』では、この絶望を飲み込むことは出来ない。


(まっすぐいっても、いなされて終わり……搦め手はそもそも使えねぇ……積み技は、事前に潰される……小技でコツコツ削ろうにも、間合いは、常にフッキの有利で、逆に、カウンターをいれられる……破れかぶれの大技を放とうとしても、初手の初動を構築する呼吸の段階で鼻歌交じりにサバかれる。……つぅか、そもそも動きの速さが違いすぎ……ママチャリでF1に出場している気分……っ)


 迷いを殺し、何もかもふっ切って、とびっきりの覚悟を決めようと、

 明確な現実だけは、いかんともしがたい。


 必死に頑張ろうがどうしようが、勝てない相手には勝てないのだ。


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