最強じゃないと――

最強じゃないと――



 目はさめた――が、意識はもうろうとしている。

 だが、もう、すべてが、グッチャグッチャになっていて、ロクに視点も定まっていない。

 頭がガンガンしていて、形容しがたい不快感の塊が全身を包んでいる。

 チリチリィ! ジクジクゥ! とした神経の悲鳴だけが、絶え間なく続く。



「ぁあああ……うぅ……ごはっ……」



「サイコジョーカーの余韻を楽しんでいるヒマはないぞ。追試をはじめる。もう後はないから頑張れよ」


 センの声が耳に届く。

 理解しようという気にならない。


 とにかく、ただ辛くて仕方なかった。


 ――だが、


「第一問。お前は最強か?」


 その質問には、魂が反応した。


 だから、


「さい……きょう……お、俺は……」


「どうした。お前にとってはラッキー問題だろう。これは、『確実に稼いでおかなければいけない点数』の一つ。そうだろう?」



「おれ……は……」


 必死に、






「……最強、だ……」






 言葉を紡ぐ。


 それを否定する事だけはできない。

 どんな状態になろうと、どれほどの苦境にたたされようと、

 『ソコ』からは……『ソレ』にだけは、目をそむけるわけにはいかないんだ。


 ――だって、それ以外、自分には何も――



 フッキの回答を聞いて、センは言う。


「198点くれてやる。これで合計700点だな。もうちょっとで足切りを突破できるぞ。もしかしたら。二次試験に進めるかもしれないな。がんばれ」



 センの言葉など一切シカトして、フッキは、


「俺が最強だ……俺が……」


 己の全てを振り絞って言う。


「最強じゃないと……いけないんだ!」


 食いしばって叫んだその姿を見て、

 センは問う。






「なぜだ?」






「……」


 センの第2問に、フッキは黙った。


 つなぐように、センは言葉を続ける。


「この問題は、かなり配点が高いから、心して答えろ。これで『足切り突破』か『否か』が決まると言っても過言じゃない。そういう大切な大問――だから、特別に、もう一度だけ、問いかけてやる。第二問、お前はなぜ、最強でなければいけない?」


「な、ぜ……」


 言葉を反芻するフッキ。


「俺はなぜ……最強でなければ……いけないんだ……」


 『答えだけを暗記』していた『問い』の検算に挑んでみると、

 その底は、おもいのほか深くて溺れかけた。


 アップアップしながら、


「最強は……俺だから……」


 必死になって言葉を探すフッキ。


 『問い』の底で、無我夢中にモガいた結果、

 自分が探し求めているモノは、

 『整えた言葉』じゃなくて『むき出しの本質』だと気付き始める。


 自我の奥底で、プログラムの向こう側を模索する。


「俺は最強で……つまり……最強は俺で……俺は……」


 イコールが示す期待値の帰結。

 誰もが持つ、己に対する懐疑。

 心の鏡に向かって、自問自答。



 ――お前は誰だ。



「なぜ、俺は……俺でなければいけない……」


 問いが問いを連れてきて親友になっていく。


 結びつきが強固になって、その分、

 わけのわからない質量が増えていく。


「最強とは……俺とは……なぜ、なぜ、なぜっ――」


 存在意義を問う。

 『答えの出ない問題』をどうにかするための『補助線』を導き出すために、

 『答えの出ない問題』を解かなければいけない。


 無情な所業。

 理不尽な不条理。

 難問と言う名のイチャモン。


 終わらない矛盾の最奥で、フッキは、


「知るか、そんなもん……っ」


 『答え』に辿り着く。

 真理から遠ざかって、だから、心理に余白ができる。


 理知が死んで、枠ができる。

 いまだ器には成り切っていない、感情論のSOS。


「知った事か、そんな事……っ!!」


 だから、立ちあがる。

 立ちあがることができる。


 純粋理性の臨界点を超える。

 フッキは、その両手と両足に力を込めて、センと相対する。



 そして、言う。



「センエース。……お前を殺せる者は間違いなく最強……だから、俺は……お前を殺す」



 フッキの最終解を受けて、

 センは、静かに目を閉じた。

 そして、


 ――ゆっくりと頷いて、






「それでは、二次試験を始めよう」






 正真正銘、最後のテストがはじまる。





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