聖なる死神の剣翼。

聖なる死神の剣翼。



 センはボソっとつぶやきながら、右手の剣を横に薙ぐ。

 それにより、センの背後で浮遊している剣の翼が、広範囲へ展開された。



「……話の腰を折られるのが『特別嫌い』って訳じゃない、が……不愉快にならない訳じゃない。『最後までちゃんと聞け』と命令する気はないが、『俺を不愉快にさせたらどうなるか』は、その身でキチンと思い知ってもらうぞ」


「偉そうな口を叩いていられるのも今のうちだ。お前は死ぬ。俺に殺される。そして、俺の『最強』が名実ともに証明される」



 その言葉の直後、フッキは、瞬間移動でセンとの距離をつめようとする。

 先ほどよりも、はやく、鋭く、『最適』を目指した最小・最短の動き。


 襲い来る無数の『剣の翼』をアクロバティックに回避して、

 空間にデコイの残像を残しながら、

 数百手先を読みつつ、センとの距離を殺していく。


「愚かなお前に教えてやる! 『剣翼』の扱いなら、セイバーリッチに勝る者はない!」


 フッキの叫びに呼応するように集まってきた深き闇は、輝きながら収束していく。

 闇色に瞬く粒子を放ちながら、フッキの背後に、左右三本ずつ、

 宙に浮かんでいる剣の翼が顕現した。


「これぞ、まさしく、聖なる絶望。この世界で最も強大な力! 『聖なる死神の剣翼』! さあ、聖なる死を迎えいれよ]


 距離を殺し切って、センの懐に飛び込むと、

 フッキは、剣翼を高速展開させて、センをメッタ刺しにしようとする。


 ――が、


「12点だな」


 六本の剣翼による刺突だけではなく、デスサイズと聖剣も惜しみなく使って、最大火力をセンに叩き込もうとしたフッキ。


 だが、そのすべてが、一本の剣で防がれた。


 何がどうなって防がれたのか、フッキの目では追えなかったため理解する事も出来ない。


「残像が雑すぎ。動きに無駄がありすぎ。数百手ちょっとしか読んでいないから、当然、俺が用意した罠の道にもガッツリと引っ掛かる。まったく話になら……ん? おい、この剣翼、闇属性のままじゃねぇか。なにが、完全最適化だ。ハイドラと合わせたなら、神字で雷属性をプラスして速度上げろや。はい、10点マイナス。合計2点。ああ、ちなみに1000点満点な」


 つらつらと採点しながら、センは、一歩踏み込んで、フッキの腹部に、

 コツン、コツンと、軽くノックをするように左手で二発のカウンターをいれた。


 すると、


 フッキの全身にビリビリィっと何か電気のような衝撃が駆け巡り、


「ぬぃ……ぁ」


 クラっとして、その場でフラついてしまう。

 全身を駆け廻る、『痛み』ではない謎の重さ。


 そのスキ丸出しの所に、センは、しかし追撃の手を加えず、


「……はぁ……おいおい」


 溜息を一つはさんで、


「……『何をされたのか、考えてみましょう』のコーナーにうつろうかと思ったが、お前、その二段階前で渋滞しているな。セイバーと融合した割には、全体的にスペックがちょいと酷……いや、実際のところ、こんなもんか。……そうだな。どっちも無強化・無改造状態だもんな。普通に考えれば、そんなもんだよな。となると、もう少しレベルを落として、幼稚園児にも分かるようにしないとダメか……」


 そこで、センは、フッキの頭部を掴んで、

 ブンブンと左右に揺らし、


「はい、起きてくだちゃぁい。まだ、何も、はじまってすらいまちぇんよぉ」


 たまにやってしまうシューリのモノマネ。

 『バカにされている』と、相手にガツンと理解させることができる最上の一手。


「くぁっ!」


 数度、オーラを注ぎ込まれながら頭を振られたことで、フッキの意識は元に戻った。



「はっ、離せぇえ!」



 自分の頭を掴んでいるセンの手を振り払い、ダンッと地面を蹴って、後方へと飛ぶ。


「はぁ……はぁ……ぁ、ああ? なんだ、いまの……な、何をした……っ!」


「お前、最強なんだろ? なら、そのぐらい自分で気付いてみろよ」

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