センエースの予選

センエースの予選



  ――真パラソルモンの地下迷宮『地下?階』――



 そこは、かなり広いフロアだった。

 何が光っているのかわからないが、ハッキリと周囲が見渡せる謎の光。

 壁や床や天井も、扉と同じで、石なのか鉄なのかよくわからない素材。


 それらを一瞥してから、究極超神センエースは、首をひねった。


(……なんだ? このダンジョンの床と壁……知らん素材だな……)


 右足で、トトンと踏んでみた。

 踏み心地だけなら、アスファルトとそう変わらない。


 センは、ためしに、右手を床に向けて、圧縮させたエネルギーの槍を放出してみた。


 すると、シュンッっという音がして、床は、センの光槍を吸収してしまった。


(おいおい、俺の挨拶を『いただきます』とは、いい度胸してやがるじゃねぇか。まさか、禁域の扉と同じ、深層の素材か?)


 かかとで床をぐりぐりしてみたり、天井を見上げてみたりしつつ、ボソっと、


(ふざけた場所だ。……ここに入ってから、次元監視系の目が使えなくなっている。他にも……プロパティアイとフェイクオーラは使えているが、『装備セットボーナス』と『グローリー系のボーナス』が働いていない)


 なぜか、センのパッシブのいくつかが、機能停止状態に陥っていた。

 抗ってみたが、容易に弾かれる。


(……おそろしく濃度の高いジャマー。俺でなきゃ見逃しちゃうね)


「おっと、なんでちゅかね、ここ。いろいろウザいんでちゅけど」

「確かに……異常だ……なんだ、ここは……私達はパラソルモンの地下迷宮に送られたのではないのか……?」


(俺以外も見逃しちゃってなかった……まあ、そりゃそうだっと)


 コホンと息をついてから、


(さて、間違いなく『誰か』の嫌がらせが介入しているってことは理解できた。『何がしたい』のか、いまだにハッキリとは見えてこねぇが、『お遊び』レベルじゃなく、そこそこガチで『カマしてきている』ってのは分かった……上等)


 センは心の中でそうつぶやいてから、


「アダム、シューリ……俺のそばを離れるな。これは命令だ」


「はじめから、そのつもりでございます」

「……このオイちゃんに命令するとは、随分と偉くなりまちたねぇ」


「シューリ、万が一にも、お前を失いたくはない。だから、俺にお前を守らせてくれ」


「しょうがないでちゅねぇ。まあ、そこまで言うなら、守らせてあげなくもないでちゅよ」


 めんどうくさいやりとりを終えてから、

 センは、


「さて、それじゃあ、そろそろ、アレの対処にうつろうか」


 その意識を、フロアの真ん中であぐらをかいているゴーレムへ向けた。


 それは、淡い緑の光を放っている全長5メートルほどのゴーレム。

 フォルムは非常に簡素。

 まるで、手抜きの食玩。



(存在値が兆を超えている……か。ははっ。現世じゃあ、ありえねぇ存在値……だが、いまさら驚いたりはしねぇさ)


 ここは原初の世界。

 何があっても不思議じゃない。


 アダムとシューリも、ゴーレムの存在には気付いていて、最初からずっとバッシバシに警戒している。


 ――そこで、センは、ゴーレムを睨みつけたまま、


「シューリ、アダム。いま、神の力、使えるか?」


「使えまちゅよ。どうやら、ここは、禁域と同じシステムらしいでちゅね」

「私も使えるようです。ただ、禁域と違い、完全には解放されていません。妙に視界が狭くなっています」


 もちろん、今でも、一般人より遥かに広い視野を有しているが、

 神の視覚系のスキルが使える割には、いろいろとありえない死角で出来ている。


「ふむ。なんの制限かしらねぇが……」


 センはボソっとそうつぶやきながら、


(しかし、ずいぶんと、まあ、なってねぇフッキ鉱の使い方じゃねぇか。ほとんど、チンパンジーの積み木だな。コレの製作者はセンスが死んでいると言わざるをえねぇ)



 『フッキ・ゴーレム』のもとまで、ゆっくりと近づきつつ、



「こんな使われ方をされたんじゃあ、お前(フッキ鉱)が、あまりにもかわいそう。というわけで回収してやる。感激しむせびなく許可を与えよう」



『……ん……うるせぇなぁ……』



 ボソっとそう言いながら、フッキ・ゴーレムはモノアイの視点をセンに合わせた。


「おやおや、もしかして、お昼寝中だったかな? だとしたらうるさくして悪かった。謝るよ」


 軽い口調でそう言ってから、


「謝罪のかわりと言っちゃあなんだが、俺の所有物にしてやるよ。ちょうど、機動魔法用の強化素材が欲しかったところなんだ。きっちりと有効活用してやる。ありがたく思え」



『ははははは』



 小馬鹿にしたような笑い声をあげた。

 表情などないが、それでも、感情がしっかりと伝わってくる嘲笑。



『存在値50程度のカスが、よくもまあ、そこまでほざけたものだ』


「存在値50といえば、この世界だと、かなり強い方だけどな。ニーがそのくらいだし」



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