てのひらサイクロン。

てのひらサイクロン。


 そんなフーマーの使徒たちの態度を受けて、

 セファイルの王女サーナは、


(フーマーは使えない。ラムドには勝てない……ならば、道は一つ――)


 覚悟した。

 ゆえ、隠し持っていた回復の魔カード(勇者と同じように、もしもの時のために用意しておいた、キラ化させ長期間魔力をこめたランク5の魔カード)で、腕と足を治し、


「ラムド殿! どうか、私の謝罪を受け入れていただきたい!」


 『衝撃のジャンピング土下座』を決めていく。

 続けて、


「あなたに対して、愚かしい発言をしたこと、心から謝罪する!」


 飛び出す、『撃滅のてのひらサイクロン』。


「ほんとうに、ほんとうに申し訳なかった! だが、信じていただきたい! 私は! セファイル王国は魔王国に対して――」


 そして、トドメとなる、『抹殺のインフィニット責任転嫁』が炸裂。


「――代表であるリーン・サクリファイス・ゾーン女王陛下に対して、勇者ハルス・レイアード・セファイルメトスの死に対する金銭的賠償は要求したが、ラムド殿の研究結果を奪おうとしたわけでは断じてない! その愚行はあくまでも、セア聖国の暴走!!」


 続けて、サーナの父であるセファイルの国王も、


「私からも正式に謝罪をしよう! 娘が愚かしい発言をした! しかし、今、娘が言ったように! こちらに、ラムド殿と敵対する意志はない! どうか、怒りを鎮めてくれないか!」


 恥も外聞もなく、即座に頭を下げるセファイルの王族。

 『瞬殺のコウモリバースト』は、セファイルのお家芸であり、もはや様式美。

 彼らは常に強い者の味方なのだ。

 ブタなのかコウモリなのか、ハッキリしてほしいところである。



 ――そんなセファイルのふざけた態度を見たカバノンは、さらに激昂し、



「き、貴様らぁあ! 人類を裏切ってモンスターに媚びるか! 恥を知れぇえ!」



 その怒声に対し、サーナが冷めた目で、


(状況が理解できないのか、あのクソバカは……)


 弱小国で、絶えず、肩身の狭い想いをしながら、それでもどうにかこうにか祖国を存続させてきた――そんな歴史を背負って戦ってきた国王と王女サーナは、だからこそ、状況が正確に見えている。


 セファイルが千年国家になったのは、事実、彼女達――勇者の血筋が優秀だったから。

 『勇者ほどの超越者が産まれた』のは確かに偶然だが、『ありえない奇跡』ではなかったという証。


 常に、周囲をうかがい、計算高く、優れたスペックを最大限駆使して、八方から『運だけの弱小コウモリ』と罵られながらも、しかし、しぶとく生き残ってきた。


 そんな彼女達だからこそ見える未来というのがある。


 ラムドは覚醒した。

 勇者の暴挙によって目覚めてしまった。


 ――いや、違う。

 そうではない。



「ラムド殿は、先ほど、こう言った。『ウツケのふりはもうやめだ』と」



 ラムドは待っていたのだ。

 タイミングをうかがっていた。

 ラムドは狙っていた。

 『俗世に興味がない召喚バカ』のフリをして世界を欺きながら、

 しかし、その裏では、狡猾に、虎視眈々と、

 世界を奪い取るタイミングをうかがっていた。


「その意味がわからないのか? 状況が整ったからだ。世界を相手にしても勝てる戦力が整ったから、バカを演じるはやめると宣言したのだ」


 そんなサーナの発言を受けて、ラムドは言う。


「ははっ……ちょっとカースソルジャーに撃退されたくらいで、随分と弱腰になったな。一国の次期女王にしてセファイルの現最大戦力ともあろう御方が、俺みたいな、イカれた召喚キ○ガイに、そうまで媚びへつらうとは……滑稽だな」


 そこで、サーナは、乱れた髪や服を整えて、

 どたばたの土下座ではなく、

 正式かつ優雅に頭を下げて、


「我が祖国セファイル王国は、貴国と同盟国になることを望みます。我が愚弟が犯した失態は必ず償います。どうか、どうか、セファイル王国の友好を受け取っていただきたく、お願い申し上げます」


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