八方塞がり。

八方塞がり。



 『大帝国は、実は、そこまで悪い国ではなかった。魔王国の策略で、ワルモノにしたてられた。そして、魔王国は、大帝国を襲って略奪の限りをつくした。魔王国が潤っているのは、そのせいだ。あいつらは許せない』



 『なにをバカな事を』

 大声でそう反論した者は秘密裏につかまって処刑された。

 別に、大勢に対して、その不条理を執行する必要はない。

 何人か見せしめに消してみせれば、賢い者から順番に、己が身を案じて口を閉じる。

 そうして、頭の使い方を知らない者が、ハシから洗脳されていく。

 そして、最後にはトーンの国内では、『トーンの作り話』が事実になる。

 数の暴力が現実を捻じ曲げる。


 自国をコントロールする手段として、他国を貶める。

 非常に便利で効率がよい最善手。






 ――現在、トーン共和国の主席『カバノン』は『次の選挙での勝利を確定させる条件』を探していた。

 これまでの功績から、カバノンは、『八割方、自分が勝つだろう』と認識しており、事実、このままなら、ほぼほぼカバノンがそのまま続行する事となるだろう。


 しかし、百%ではない。


 若手(といっても、30代)に活きのいい政治家がいる。

 かなり質の高い冒険者で、顔がよく、非常に弁がたつ。

 思想は青くさい(もちろんリーンほどじゃない)が、平和なご時世ではそれが受けたりもする。

 まだ若すぎるという見方が大半だが、何かの間違いで、彼が当選する可能性もある。


 カバノンは決定打を望んでいた。

 8割を100%にするトドメの一手。


 そこに、セファイルから、『勇者が魔王国に殺された』という吉報が届いた。

 カバノンは歓喜した。

 神様がくれたチャ~ンス。



「ラムドが勇者を殺害する様は凄惨極まりなかったとのこと……残虐な殺害現場を目撃させられた『我が国の巫女』が、実に気の毒だった」



 目頭を押さえながらそんな事をのたまうトーンの主席カバノン。


 サーナは、そんなカバノンをチラっと横目に、『お気の毒に』的な顔をしつつ、しかし、心の中でほくそえむ。


 トーンの国政が理解できているセファイルは、セアとミルスの代表だけではなく、カバノンに対しても、『現在のような流れ』になるよう手助けを要請した。

 とんとん拍子で書けた画は、リーンにとって地獄絵図。






 ……セファイルは、『勇者の魔王国襲撃』に対し『対応策』を考えた結果、

 最初は、『既に死んだ勇者に全責任を押しつけて乗り切ろう』と考えていたが、

 ――勇者に責任を押し付けるだけでは、面倒な事になる可能性もゼロじゃない。

 と、時間がたつにつれて、色々と不安要素が沸きあがり、

 議論は、こじれて、ねじれて、曲がって、歪んで、結果、

 『むしろ、勇者が死んだ事をチャンスにしよう』という結論に達した。


 もし勇者がただ負けただけで生きていれば、どこかのタイミングで『所詮、この世界は、俺に遊ばれるために存在しているだけの、罪上に浮かぶ穢れた楼閣。それ以上でも以下でもない。それを証明しただけさ。他意はねぇ』などと、ちょっと何を言っているのかわからないイカれた事を言い出すこともありえたし、それを制御する方法はなかった。

 しかし、あのバカはすでに死んでいる。

 死ぬ訳がない(強すぎて誰も勝てないから)と思っていたゆえ、これまでは『そっち方面』に思考が巡っていなかったが、勇者の死に対する認識・理解が時間経過で深まるにつれて、多角的な良策が、どんどん沸きあがってきた。



 結果、セファイルは『いっその事』と、トーン・セア・ミルスも巻き込んで、魔王国から資源・利権等を根こそぎ奪う計画をたて、今、こうして堂々と実行に移しているという話。


 未成熟な国際関係において、義理や道理が『器』となる事など、むしろマレ。

 というか、魔王国は、そもそも、周囲から狙われていた。

 みな、『魔王国から奪っていい理由』を探していた。


 家畜の分際で、しかし、へんに『人間っぽく』、かつ、妙に人間よりも理性的な面を見せやがる小憎たらしい化け物共。

 やつら(魔王国)を完全な支配下において、人間様の道具にする術を、誰もが心の奥底では画策していた。


 家畜に権利は必要ない。

 ただ、さばかれていればいい。



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