勇者の死と世界情勢

勇者の死と世界情勢



 巨大な扉の先は、豪華で広い会議室になっていた。

 王らしく着飾ったリーン(決してキンキラではないが、抑え過ぎてもいない姿)は、後ろにラムドとサリエリ(二人とも、正礼装)を連れて、会議室へと足を踏み入れる。


 六国首脳会議で使われている『この厳かな空間』は、聖霊国フーマーの神殿内にある。

 ――神都『安楽の地』に位置する、七層構造の『偉大なる主の円環』に守られた巨大城、『ゼラグルルオン』。


 『世界の全て』を意味するその城の第一層。

 中央にある円形の巨大な会議室。




 既に、会議室には、各国の首脳が集まっていた。



 フーマーに『集まれ』と言われれば、それが、いつ、どんな理由であろうと、誰も断れない。


 もし、意味なく逆らえば、フーマーの敵となってしまう。

 フーマーは戦争に関わらない。

 別に、フーマーの敵となったからと言って、滅ぼされる訳ではない。

 だが、フーマーに、敵だと認識された国は、『人の国』ではなくなる。



 『この場』のような、『きちんとした裁判官(とはいえ、介入はしてこない)の目が光る正式な話しあいの場』は持てなくなる。

 かつ、軍事国際法が適用されなくなる。


 ※ 軍事国際法(フーマー条約)。

 この世界には、無意味に人的資源を減らさないための戦争ルールがいくつかある。簡単に言えば、『戦争しちゃダメとはいわない。けど、これは流石にしちゃダメぇ』というルール。遥か太古に、フーマーが勝手に決めたもので、

 ・戦争に参加出来る者のライン決め『存在値25以下の者は戦争に参加してはならない(歳や性別は不問)』、

 ・フーマーに指定された特別区域(主に首都等)での戦争行為禁止、

 ・過剰な略奪行為に対する罰則等がある。



 フーマーが敵と判断した国には、俗に『フーマーの境界線』と呼ばれる『線引き』がなくなる。

 それは、すなわち、『何をされても文句を言えない国』と世界から『正式な烙印』を押されてしまうという事。

 過激な表現をすれば、『人類の敵』とみなされるということ。


 どうにかこうにか、現在まで生き残ってきた六国に、『そうなってしまう事』の恐ろしさが理解できないほど未成熟で愚かな国はない。



 ――『俺達(フーマー)が決めたルール、破りたければ破ってもいいけれど、相応の覚悟はしてくれよ。俺らをナメると地獄を見るぜ』――



 あの傍若無人で厚顔無恥な『帝国』ですら、フーマーの招集には一度として一秒たりとも遅れることはなかった(むしろ、常に一番乗りだった。当時、誰が最もフーマーにしっぽを振っていたかと言えば、間違いなくカル大帝国)。



 序列の問題で、セファイルは一度、フーマーに対して、

 『ウチが最下位ってどういうことだ、ふざけんな!! ……と、ウチの勇者が怒っているぞ! フーマーにムカついているのが我が国の総意という訳ではないが、ウチの勇者がだなぁ、ごにょごにょ』

 と、セファイル的にはかなり強めに抗議した事があった。

 が、フーマーに、『あん?』と言われてセファイルは『きゃいん』とすぐに黙った。

 セファイルはフーマーから、実質的に、『お前らの国は下等なモンスターの国以下だ』という史上最大の屈辱を受けたわけだが、しかし、『少し強めに抗議』するのが精々だった。






 ――それが精霊国フーマー。

 ぶっちぎり序列一位の万年国家。

 世界の警察にして裁判所(とはいえ、逮捕したり判決を下したりは滅多にしない。立ち位置は、『基本的には未介入』を原則とする、雲の上からの観測者)。



 そんなフーマーの招集。

 当然、各国を背負っている代表達は、礼装で即座に集合。

 まあ、フーマーに対する『明確な恐怖』がなくとも、今回の場合は、みな、一秒たりとも遅刻をせずに集まっていただろうが。



 勇者が魔王国にカチコミをかけた事を知らない者はここにはいない。

 中には、そそのかした国もあるし、『我関せず』を貫きながら、しかししっかりと動向を見ていた者もいる。



 勇者と魔王国。

 その衝突の結果、『どうなるか』は、この世界の今後を決める大事。

 そして結果は出た。


 大穴中の大穴。

 誰も全く予想していなかった、勇者の死亡という最悪の結末。


 勇者の敗北も、一応、各国首脳陣が『予想していた範疇』ではあった。

 だけれど、みな『勇者が死ぬことはないだろう』と思っていた。


 その理由は、やはり、お花畑魔王リーン・サクリファイス・ゾーンの存在。

 仮に魔王国側が有利になっても、そうなれば、勇者を殺すことを、リーンが拒む。

 それに、勇者はクズでバカだが、『頭が弱い』という訳ではない。

 不利になれば、即座に撤退を考えるはず。

 準備を整えてリベンジをする道を探すはず。



 今回の襲撃に合わせて、勇者が『次元ロックを突破できる転移のアイテムを用意した』という情報もちゃんと、各国の上層部の耳には入っていた。

 最悪、そのアイテムが不発でも、そうなれば、リーンに拘束されるだけ。

 どう転んでも、勇者が死ぬことはないだろう。

 誰もがそう予測していた。



 だが、勇者は死んだ。

 ハッキリ言おう。

 ガチで誰も、『勇者が死ぬパターン』だけは考えていなかった。

 九割方、勇者の勝利。

 最悪でも、勇者が追い返される。



 どちらかだろうと予測して各国は、その予想を踏まえた上での対応を考えていた。



 それが狂った。

 勇者は死んだ。

 なんだかんだいって、でもまあ一応、事実『人類の宝』だった勇者が死んだ。

 色々と問題はあるけれど、間違いなく『人類で最も優秀だった戦士』が死んだ。

 クソ野郎だけれど、唯一、『個』で、リーンやラムドと闘える人間が死んだ。


 その狂いが、ここから先の面倒を大きくする。

 これから、国と国が、ヤバめにぶつかりあう。


 そんな混沌の中心になるのは、もちろん――



 ラムドの立場と、表では異次元の力を持つ38歳のセンエース、

 ゴート・ラムド・セノワール。


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