破滅への道標。

破滅への道標。



 ソルの話を聞いて、ゴートは、


(……宗教ってのは、多かれ少なかれ、そういうところがある。上が下を騙して搾取する合法的詐欺組織。全部が全部そうって訳じゃないが……そういう側面があるというのも事実……)


 まず、そんな事を想った。

 ソルの言葉が、ストンと胸に堕ちてしまった。


(すがるのが悪いとは言わねぇ。人は弱い。何かを支えにしないと生きていけないのも『人間』の現実。問題なのは、すがる相手を間違える事。もし、ゼノリカが、『支柱とすべき相手』を間違えているというのなら……)


 ソルの言葉は、一本道のRPGみたいで、退屈だが迷うポイントがない。

 あまりにも整理されすぎていて、疑念を抱くヒマがない。


『ゴート様。このミッションは、ゼノリカを信じて心を尽くして闘ってきた、UV1様のような方々を救う事にも繋がるのです』


 ゴートは、ソルの言葉に疑問を抱くための理屈を有していない。

 当然。

 ソルは、ゴートの中にはない情報だけで物語を構成している。

 だから、ゴートは、ソルの言葉を疑えない。


 耳に残る情報は、たんたんと、一本の筋となっていく。


 ゆえに、スっと心に入ってしまう。

 深部に入りこんでくる。

 耳ざわりのいい、整ったシナリオ。


(ゼノリカを穢す悪……滅すべき敵……それが、天国のエレガ・プラネタ)


 もはや、抗えない。

 ゴートは、ソルにからめとられた。


『エレガを倒し、ゼノリカを、本物の希望にしてください。世界を救ってください。どうか、全てを照らす光に……全ての絶望を殺す理想のヒーローに……センエースに、なってください! これは、あなたにしか出来ない事なのです!』



 もはや、疑念はなかった。

 問題となるのは、


『……俺にしか出来ない、か……過大評価だぜ。蝉原にすら勝てなかったゴミクズの俺なんかに……』


 自分に出来るか否か。

 それだけになっている。


 滅すべき悪『エレガ・プラネタ』に、自分が勝てるかどうか。

 自分なんかに、世界を救うなんて、そんな大それたことができるのか。

 それだけで頭が一杯になる。


 完全にからめとられた証拠。


 意図的で静かなオーバーフロー。

 刷り込まれていく幻想。


 ゴートは気付かない。

 そして、ソルは止まらない。

 めざとく考えるスキを潰していく。

 よりはやく、より強い言葉で、まくしたてていく。



『できます! ゴート様! あなた様ならできる! というより、事実、これは、あなた様にしかできないのです!』



(……)



『ゴート様!』



『そう……だな。弱音を吐いても意味はねぇ。どっちみち、フッキはどうにかしないといけないし。あんなもんの主導権が、ヤバめの思想の持ち主にあるって現状は受け入れがたい。それに、もともと、ゼノリカの上が腐っていたら潰すつもりだったし。トップのトップが腐っているとなれば、俺的に、動かない訳にはいかない』



『ありがとうございます! あなた様ならそう言ってくださると信じていました!』



『……ちなみに、どうやって、天国を訪問する? セキリュティ万全の家に引きこもっているエレガをどうやって殺す? 天国の許可を取る方法はあるのか?』


『それについては、面倒な複雑な手順を経る必要があるものの、しかし、間違いなく現実可能なルートがあります』


『……ルート……ねぇ。どんな?』


『エレガの従属神に選ばれるのです』


『従属神……部下みたいなものか?』


『まさしく。従属神は、エレガの望みを叶える手足。現在、五柱の従属神が、エレガに選ばれており、彼・彼女らは、エレガから全幅の信頼をおかれています』


『部下がたったの五人か……少ないな。転生する前の俺でも、直属の部下だけで、10人くらいはいたんだが。もしかして、エレガは、自分の部下も、毎回、フッキに壊させて、新世界で、いちいち再調達しているのか?』


『いえ、エレガは、フッキに世界を壊させる際も、天国と従属神だけは残しておくのです』


『ワガママお嬢様に尽くす執事と自宅は残す……まあ、当たり前っちゃ当たり前だな。それなのに五人だけ。……もしかして、エレガは孤独主義か? それとも、部下を選ぶ基準が高い?』


『後者です。エレガの他者を見る目は非常に厳しい。自分に見合うと認めた相手でなければ、側に置くことはありません』


『ワガママお嬢様の厳しい目に適って従属神になること……それがルートか。なるほど。全体像が見えてきたな……』



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