そして、家族になって、

そして、家族になって、








 シューリのプライドの高さは、本当に、飛びぬけてブッチぎりで異常。

 シューリの外面(そとづら)は、何かの策略等ではなく、

 単純に、『性格が歪んでいる』がゆえの単なる結果でしかない。


 もっとハッキリと的確に言葉を並べるのなら、

 『他者に腹の底を見せるのはイヤ』なのだ。

 その『イヤ』の『意味』は、

 『ゴキブリを口の中にいれるのはイヤ』と完全にイコール。


 ゴキブリを口にいれたところで別に死にゃしない(病気になるかもしれないが)。

 だが、死ぬほどイヤだ。

 絶対にイヤだ。

 想像するだけでもイヤだ。

 なんで、そんな事をしなければいけないんだ、ふざけんな、いいかげんにしろ。


 ――それと同じ。

 ――すなわち、明確な理由があるのではなく、単純にイヤなのだ。

 ――結果としてどうなるから等ではなく、純粋無垢にイヤなのだ。



「これに関しては、こちらの本気度を伝えるために、前払いしまちゅ。これだってかなり譲歩だという事をご理解くだちゃい」


 言ってから、シューリは、

 最後にもう一度だけ深呼吸をする。


 覚悟を決める。

 なかなか決まらない。

 当然。

 シューリは、今から――


「ほんとうに、ほんとうに、一回しか言いまちぇんから、ちゃんと聞いてくだちゃいね……すーはー、すーはー」


 ギリギリと奥歯をかみしめながら、

 少し震えながら、

 それでも、

 ハッキリと、ではなかったけれど、

 しかし確かに、






「どうか……あたしの……パートナーに……なって……く……だ……さい」






 言った。

 素で、本音を言った。


 シューリの今の心境は、一言で言えば、ゴキブリを口の中にいれている状態。

 握りこぶしをギュウギュウとしめて、込み上げてくる嫌悪感に絶えている。


 その顔を見て、

 アダムは理解した。


 この女は、本当に嫌なのだ。

 素を見せるのが、嫌で嫌で仕方が無い。



 アダムは、今のシューリを見て、こう思った。


 ――おかしい。

 ――狂っている。

 ――イカれてんのか?

 ――何がそんなにイヤなんだ。

 ――ちょっと真顔になって、一人称と語尾が少し変わっただけじゃないか。

 ――それの何がそんなにイヤなんだ。

 ――本物のバカなのか?



 アダムは、奇行種を見る目でシューリを見る。

 意味がわからない。

 理解ができない。


 ただ、シューリの本質についての理解は出来なかったが、

 しかし、だからこそ『痛いぐらいに伝わってきた事』が確かにあった。






 ――つまり、本気だって事。






(本当の同盟……パートナー……確かに、この女の利便性を考えれば、むやみやたらと敵にまわすよりも、味方にした方が賢い。敵として考えれば最悪だが……味方だと思えば、これほど頼りになる者はそういない。なんせ、勝利と幸運の女神……)


 女神の中の女神。

 この世の誰もが、心の中では、最初から最後まですがり続けている天の光。

 この世の誰よりも味方に引き入れたい究極のワイルドカードと言えよう。


(……それに、実際、主上様の『過去の記録』がもし本当に残っているのなら……それは、確かにとてつもない財産であり、それが共有という限定条件つきではあるものの、自分のものになるのは非常に大きい……奪い取って私だけのモノにしてやりたいという気持ちもあるが、それは、つまり、結局のところ、最初に戻るだけの話。シューリを殺せなければ出来ないし、シューリを殺すのは非常に難しい……)


 アダムは、ぐるぐると頭を悩ませた結果、


 ついに、


「裏切りは絶対にありえない……一度でも、貴様が私に、わずかでも、ほんの少しの疑念でも感じさせた段階で関係は終了。それでも構わないのなら……本気で、貴様の……君のパートナーとなろう」


 返事を受けて、シューリは、いつものニタニタ顔に戻り、


「誓いまちゅよ、絶対に裏切りまちぇん。オイちゃんと、アーちゃんは、今日、この日より、流血で繋がった家族」


 言いながら、シューリは、自分の首をアダムに差し出した。

 すぐに意味が理解できたアダムは、


「いいだろう……その覚悟、確かに受け取った」


 言いながら、シューリの首にかみついて、ギリっと肉を噛みちぎり、ドクドクと溢れるシューリの血を飲んだ。


 続けて、アダムも首をさしだす。

 同様に、シューリも、アダムの首を噛み、流れる血を飲んだ。


 コクコクと喉がなる音。

 近づいているからわかる。



 トクトクと、シューリの心臓が拍動している。




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