センエース様、すてき! センエース様、抱いて!

センエース様、すてき! センエース様、抱いて!




 と、そこで、センは、


「それより、シューリ」


 ニィっと、


「俺、そろそろ、究極超神化7が使えそうだぜ。『何がどうなってそうなる』とは詳しく言えないんだが、感覚で分かるんだよ。あ、俺、そろそろだなって」


 子供が母親に向ける『聞いて、聞いて』という無邪気な顔で、


「流石、俺……そう思わねぇ? 前から、なぁんか『俺ってヤバいなぁ』とは思っていたけど、どうやら、このセンエースさんという男は、想定を超えて格が違ったらしい。マジで無限いっちゃうんじゃないかなぁ、いや、行くねっ、行っちゃうねっ」


 ノリよくそんな事を言ってくるセンに、シューリは、いつも通りの、酷く冷めた態度(ニタニタ顔は維持しているため、余計に感じる遠さ)で、


「好きにしてくだちゃい。てか、あんたがどこで何をしてどんな風にどうなろうが、んなことには一切興味がないでちゅ。ほんと、ガチでバッキバキに知ったこっちゃないでちゅ」


「お前さぁ、俺に対する、その興味の無さ、少しどうにかしてくんない? 一応、俺、お前の元弟子だぜ? で、一回、お前の命とか救ってんだぜ? もっと言えば、俺、神様の神様だぜ? つまり、一応、立場上は、お前の上司だぜ? それなのに、まったく……なんつぅか、敬意が足りないわぁ……分かってないわぁ……お前は、俺を分かっていない。俺がどれほどの男か分かっていない」


 そんな言葉を受けて、シューリは、

 表情こそ、いつものひょうひょうとしたニタニタ顔だが、


「分かっていまちゅよ、この世の誰よりも、オイちゃんは、あんたの事を知っていまちゅ」


 少しだけ、本当に少しだけトーンを抑えてそう言った。

 センの感覚器に届くほどの感情変化は見せない。

 シューリのポーカーフェイスは常にエゲつない。


 ゆえに、センは、調子そのままに、


「この世の誰よりとは、随分と吹くじゃねぇか。じゃあ、言ってみろよ。センエースさんの凄さを語ってみろよ。俺を褒めて甘やかしてみろよ! とろけさせてみろよ! ほれ、言ってみろ。センエース様、かっこいい! センエース様、すてき! センエース様、抱いて! セイ!」



「センエース様は、最低な鈍感クズ野郎でちゅ」


「人の話、聞いてた?! 褒めろっつってんの! お前の俺に対する罵倒は、もう聞き飽きてんだよ! もう、お腹いっぱいなの!」


 今日も、いつもどおり、シューリのテレ隠しが炸裂する。

 徹底して極端なツンドラの全力投球。


 プロポーズさせる手段などを考えて考えて考えて、

 だが、結局、セン本人を前にすると、

 いつだって、こんな感じになってしまう。


 結論。

 センがシューリの想いに気付いていない理由は、センが鈍感だからではない。

 センは決して鈍感型の難聴系主人公ではない。

 ないんだもんっ!



 シューリ・スピリット・アースは、常に、その異常に高いプライドのせいで本音が言えない、全体的に面倒臭さがハンパない特殊ツンデレ型の女神様。

 ――だが、

 このキャラを貫いているからこそ出来る事というのもあって、


「まあ、けど、『原初の世界』を見つけたのは……お手柄と言えるかもしれまちぇんね。別に、『誰も行きたいとは思っていなかった世界』でちゅけど……誰も辿りつけなかった世界というのは事実でちゅから。それに、限界を超える手段を見つけたのも、まあ、お手柄でちゅね。邪神はもういないから、別に、『限界を超えたい』とか一度も思ったことありまちぇんけど」


「俺の手柄を根こそぎ殺していくのはそこまでだ。泣くぞ、いいかげん。全米が引くほど、ワンワン泣くぞ」


「だけど、まあ、一応、手柄は手柄でちゅからねぇ」


 言いながら、シューリは、センの頭を両手で掴み、


「褒めてつかわちゅ」


 そう言って、ギュゥっと、センの顔を、自分の胸に押しつけるようにして抱きしめた。


 センは、シューリの柔らかな胸に、ヌプヌプとうずくまりながら、シューリの腰に両手をまわして、ギュっと抱きしめる。


「俺、すごい?」


「すごい、すごい」


 言いながら、センの髪をナデナデするシューリ。


 本音や素は絶対に出せないが、

 上位者としてならふるまえる。

 超越者としてなら何でもできる。



 プライドのスキをついた一手。

 『お~、よちよち』が枕につけば、こんな事だって出来るのがシューリの強み!


 強みっつぅか……普通に『結婚しましょう』が言えればそれで全てが解決する話なのだが、そんな事は、今、どうでもよろしい!


 この時間のぬくもり、それを守りたいという感情だけが、今のシューリのすべて。






(邪魔はさせない)


 センを、優しく、その豊かな胸の中に包み込みながら、シューリは、心の中で、


(絶対に奪わせない……センは、あたしの男だ)



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