独白 理由

独白 理由





 ――200億年。

 子供の冗談のような数字。

 耐えきられる訳がないと、俺自身、途中で何度も思った。

 途中っていうか、序盤かな。

 とかく、最初の方がやばかった。

 何度も壊れかけた。

 はじけ飛ぶ直前までいった。


 耐えられた理由はいくつかある。


 倒したい敵がいた。

 俺は『ひたすら同じことを繰り返す事』ができる性格だった。

 強くなる事が好きだった。

 すげぇ出来がいいCPU作成装置があった。

 中は、まあまあ快適だった。

 孤独にはなれていた。


 いろいろ理由はあるが、一番は、やっぱり、



 ――助けたい女神がいたから――



 シューリを失いたくねぇ。

 あの200億年間の中で、『ソウルゲートをくぐる前の記憶』を大半失った(保存されていたため、外に出てすぐ取り戻した)が、その想いは消えなかった。

 薄れる事さえなかった。

 これはなかなか凄い事だと自分でも思った。

 自画自賛!






 ……まあ、最後、ちょっとテレで茶化しちまったが、

 俺が積み重ねた時間は決して冗談じゃない。

 軽く自嘲気味に茶化すのが限界で、どうしても、冗談には出来ないんだ。








 で、まあ、そんな感じで、俺は、神威の桜華になっちまったわけだ。

 アポロギスを倒した事で、神の王になって(王になったといっても、実際のところは、ていよく押しつけられただけだが)、

 真なる究極超神なんて看板を背負うようになって、

 最果ての頂点に至って、

 『ワガママに運命を調律する暴君』、

 『舞い散る閃光』となった。








 ★


 最強の神になるまでは、自由きままにやっていた。

 苦しい事は多かったが(本当に多かったが)、それでも、まあ、わりと奔放に楽しく生きていた。


 ただ、『神の王』になって以降の『現世に転生している際』は、現世の生命に対して、酷く気を使うようになった。

 自分でも、どうかと思うほど、色々と『過保護』になった。

 自然と、現世に生きる『弱い連中』を『裏』から守るための行動をとるようになった。

 表には一切出なくなった。

 『ただの神だったころから、ずっと、それなりに自重していた』が、神の王、神の神になってからは、完全に世界の影に潜むようになった。

 ゼノリカのルールとか、そんなんじゃなく、『そこまで至った俺』が『現世の表』に出るのは『なんか違う』と、本当に、なんとなく思ってしまった。


 ゆえに、

 しがない商人とか、

 しがない風来坊とか、

 しがない作家とか、

 しがない画家とか、

 しがない料理人とか、

 しがないカメラマンとか、

 そんなんばっかりやっていた。



 そんで、なんか面倒な事が起きそうな時は神として世界を救済する。

 もちろん、正体は秘密♪

 大いなる力には、大いなる責任が伴うって事くらい知っている、

 親愛なる隣人センエース。


 みたいな。







 とにかく、神になって以降の俺は、本当に、

 別にそうするつもりもなかったのだが、

 なんだかんだ、結局、ちゃんと、神様をやっていたように思う。


 秩序や命を、ただ守った。


 やりたかった訳ではない。

 ……ここ大事。


 考えたら分かるだろ。

 何がおもしれぇんだよ、そんなもん。

 それって、まさしく、俺の嫌いな『お使いゲー』じゃねぇか。

 どこどこにいって、だれだれを助けて。

 ――てめぇでやれや。


 もちろん、そういうのを楽しめるヤツもいるだろうぜ。

 けど、俺はそうじゃなかった。

 性格的に、お役所勤めはできねぇ。

 そんだけ。






 ぶっちゃけ、修行だけしていたかった。

 強くなる事だけが喜びだった。

 強くなるっていう言い方に限定すると、なんだか戦闘狂みたいに見えるかもしれないけれど、それとは少し違って、

 なんていうか、

 あえて整えて言うと、


 『できる事』を増やしたかったんだよな。


 盲目に『誰かを叩きつぶしたい』って訳じゃなく、

 『気に入らない奴が目の前に現れた時に、叩き潰せるように』なりたかった。

 ――そんな感じ。

 俺の、『強くなりたい』っていうのは、そういう意味。



 『誰よりも強くなりたかった』って訳じゃなく(いや、まあ、もちろん、それも、夢の一つで……けど、そればっかりってわけじゃなく)、『夢を実現するための強さ』が欲しかった。


 『戦闘の強さ』は、自由を得るために必要な最低限。

 何をするにしても必要な根本。

 世界を終わらせようとするバカをぶっとばせる力がないと、

 世界が終わって、何もできなくなっちゃうからね。


 一言で言えば、俺は、『こうしたい』と思った時に、

 ちゃんとそれを実現させるための『力』が欲しかった。


 そして、その力を得るために努力を積んでいる時間が好きだった。

 結果だけではなく、過程も楽しめたのが大きかった。


 あの200億年だって、前半は確かに色々とヤバかったが、

 どうすればいいか分かってからの後半は、なんだかんだ楽しんでいたんだ。







 いつだって、強くなり続ける事ができたから、

 だから、俺は、どんな絶望にも耐えられた。


 まだまだ先があると思っていたから、

 どこまでいけるんだろうってワクワクしていたから余計に。









 だからこそ、限界があると分かって絶望したんだ。





 あれだけ忌避していたはずの、自殺を図るほどに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る