最後の抵抗

最後の抵抗




 絶死のアリア・ギアス。

 全てを賭す最後の最後のデスブースト。

 ゆえに、その効果は絶大。



 サイケルの体が真っ赤なオーラに包まれる。

 毒々しい電流が流れる体。

 ドクンドクンと、サイケルの全身が、早鐘のように脈打っている。


 筋肉が少し熔けている。

 頬が少しコケて、髪の色も明らかに悪くなった。




 ――受け入れた死の覚悟が重なって、

 ――枯れ落ちる影を見つめながら、

 ――優しい刹那を集めていく。



 壊れて、砕けて、熔けて、







 ――自由になるの。








「……これが……本当の自由……」


 サイケルは、自分自身から溢れ出ている力を感じ取り、


「神を超えた神を……さらに超えた世界……本物の自由……」


「正式には、その先にある壁をもう三つほど超えた状態だな。今のお前は、究極超神の領域に片足を突っ込んでいる」



「しかし、これでも――」



 サイケルは、


「ここまでしても――」


 転んでしまった子供のような、クシャクシャの顔で、


「……届かないのか……たった3分でも……全てを賭して、なお……私は……貴様を……超える事ができないのか……」






 みっともなく、ポロポロと泣きながらそう言うサイケルに、


「俺の存在値だけを見てモノを言っているなら、それは勘違いだ。デスブーストで制限なくフルスペック状態を保てる今のお前は、『ここから数手損を覚悟でバフを積んでいかなければいけない俺』よりかなり有利な状態にある」



「……」



「特別に教えてやる。――今のお前なら、俺に勝てる。最善手さえ打ち続ければ、お前は、俺を殺し切れる」


「……ほん……とうに……?」


「お前にウソをつく理由がない。もっとも、その確率は限りなくゼロに近いがな。おおよそ……17兆に1回くらいの幸運……が、17兆回くらい連続で起きれば、俺は死ぬだろう」


「……」


「仮に死んでも、俺は、また違う世界に転生するだけだが、俺を殺せたという証は残る」



 センの言葉を聞いて、サイケルは目を閉じた。

 眼球を潰すほど強く、ギュっと、強く――



(……くそったれ……)


 絶望の中で、サイケルは、



(……くそったれ、くそったれ、くそったれ……)



 重たい憤怒に包まれていた。


 間違いなく頂点にたったはずなのに、簡単に崩れていく足下。


 ありえない不幸の連続。



 ゆえに、サイケルは怒る。



 なぜ、こうも簡単に崩壊するのだ。


 意味が分からない。


 あっていい訳がない、こんな理不尽。


 だから、



(せめ……て……)



 サイケルは、『最後の抵抗』を開始する。

 無駄だとは思うが、しかし、このまま死ぬのは許せない。



(ほんの……少しだけでも……)



 『それ』は、ほんのわずかではあるけれど、サイケルの中に生まれた、『本物の意地』。


 愚かな勘違いではない。

 みっともないあがき。


 すなわち、『積み重ねるに値するもの』。






 だから、という訳では無いけれど――






「おっと、下らないおしゃべりをしていたら、残り時間が二分を切った……時間がない。さっさと、俺を殺す気で、かかってこい。せっかくのデスブーストを無駄にしたくないだろ? 俺的にも、死なれたら困るしな」



 呑気にそんな事を言うセンの前で、



 サイケルは、天を仰いだ。



「――は、はは……」



 笑う。


 かすれた声が空に響く。



「諦めるなよ、サイ。いける、いける。ゼロじゃないんだ。可能性は――」






「そうじゃない」






「……ぁ?」



「貴様に提示された低確率に絶望して笑っている訳じゃない……」



「この状況で絶望せずに笑う? 豪胆だな……しかし、お前はそれほどの傑物じゃないはずなんだが」



「いや……実は……どうせ、何もできないのなら……と……最後に、一度……試してみたら……」


「……ん?」






「できちまったよ……はは…………ぅ、ウレしぃ、うれしい……へへへ」






「……はぁ? 何を言って――」






「――解析完了だ――」



 サイケルは、ニタァアアアアっと黒く微笑んで叫ぶ。



「弾け飛べぇえええええええええええ!!」










 ――パァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!








 ――世界全てが吹っ飛んだかのような激しい破裂音をあげて、






 センの核が弾け飛んだ――

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