-7896778話      『星を並べて遊ぼう』

-7896778話      『星を並べて遊ぼう』


 アプリを使って時間を加速させ、

 開闢(かいびゃく)の様子を監察しながら、

 百億年まで経過させた時、




 ――『星間整地アプリがアンロックされました』




 時間加速が強制的に停止され、そして、新たなアプリが使えるようになった。


 『彼』は、そのアプリを使って、巨大な恒星の周りに、いくつかの惑星を配置する。



 このころになってくると、作業そのものを楽しむ余裕が出てきた。

 壮大なパズルをしている気分。



 あらかた整地が終わった時、



 『彼』は、ひとつの惑星に興味を抱く。



 恒星から離れ過ぎているわけでも遠過ぎるわけでもない、ちょうどいい位置にある星。



 70%が水で覆われており、岩石や金属によって構成され、

 窒素・酸素を主体としていて、大気という多断層の気体が存在する、

 『脳を持つ生命体』の生存が可能な理想的な星。




「いいじゃん。地球っぽい。いや、地球より出来がいい」




 『彼』は、その星に降り立ち、

 適度に時間を加速させながら、様子をうかがってみた。



 すると、予想通り、十億年ほどで、その星に、生命が誕生した。



 最初はバクテリアなどの単細胞生物だけだったが、

 やがて、光合成で酸素を生み出すシアノバクテリアという細菌が生まれはじめる。



 生物の天敵であるウイルス――その天敵である酸素が大気に増えた。






 その結果、






 ――『進化指定アプリがアンロックされました』





「新しいアプリだな……うん。なるほど。……おそらく、経験して、体感して、学習すると、アンロックされていく……ってことなんだろうな」




 理解もそこそこに、

 新たな機能を起動させてみると、

 細かい項目が山ほど出てきた。




(ふむふむ……ふむ……なるほど。これは、かなり面白い機能だ。もしかしたら、人間を創ることもできるかもしれない。いや、それ以上の生命だって……)



 進化の方向性を指定できるアプリは、コマンドプロンプトを用いて、細かく命令コードを打ち込み、地道にプログラミングしていくという、かなり面倒くさそうな仕様だったが、



(どうせ暇だし、やってみるか。よっしゃ。どうせなら、究極の知的生命体を創ってやる)



 やると決めたら徹底的にやってやる。

 それが、『彼』の信条。




 細かい調整を施しながら、『彼』は、知的生命体の創造に勤しむ。




「まずは、目の進化だな……」


 眼球、光彩、網膜、そして、脳内で映像化するための神経組織。

 最も大事な機能であるため、その作成は困難を極めた。




 しかし、『加速させていない実時間』で『89年』という長い時を積み重ねたことで、ようやく『目』という高度なシステムを、この世界の生命に与えることができた。






 ほかにも、脊骨などの、生命を支える骨格のデザイン・モデリング、


 半規管などの肉体を制御するセンサーの設定、


 分裂・代謝などの基礎性能が高いタンパク質の設計など、




 『知的生命体』の誕生に必要な作業を、膨大な時間をかけてこなしていく。








 ――その結果、見事、この世に、ヘモグロビンが流れる脊椎動物が誕生した。






 バクテリアが誕生してから、ほんの500万年ほどで、

 生命は、新しい時代に突入した。



 だからだろうか、まるで、それを祝福しているかのように、






 ――『ニューラルネットワークエンジン補助アプリがアンロックされました』




 渇望していたアプリが解放された。




「助かった。脳だけは、自力じゃ難しかった」


 新たなアプリのインストールによって、

 行き詰っていたCPUのバージョンアップまで達成できたため、



 生命は、さらなる時代への扉をこじあける。







 生命は、爆発的に進化していく。




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