-17777765553321話  『  無  』

-17777765553321話  『  無  』






 ………………ゆっくりと、目を開いた。『彼』は、慎重に周囲を見渡した。




 『ソコ』は真っ暗で、何の音も聞こえなかった。



(……?)



 疑問を抱いた。しかし、混乱はしなかった。



 『※※』の記憶はある。かつて、『※※』だったことは、ハッキリと覚えている。



(死んだら無になるという話はよく聞くけど、まさか、本当に、無の中に放り込まれるとは……まいったな……つか、トラックに轢かれるとか、そんな、古臭い死に方するかね……ったく、ダセぇわぁ……仮に、これがネット小説なら、俺、確実に、読者から、『うわ、こいつ、いまどき、トラックで死んでやがる!』って後ろ指さされているぜ)





 混乱はしなかったが、徐々に膨張していく恐怖が全身を包み込む。




(異世界転生とかしてくれればよかったのに……そしたら、メッチャはしゃぐ自信があるのに。スライムを二千万匹くらい殺してレベル上げるのに)


 などと、ふざけたことを口にしていられたのも最初の一・二分だけ。


 その後は、恐怖がどんどん膨らんでいく。


 まさか、永遠に、この『無』の中で漂い続けなければいけないのだろうか。


 『永遠』という言葉が持つ意味と暴力に絶望する。

 ジットリと、重い汗が頬を伝った。



 ふと気づく。




 無なのに、汗が出る?




(……ん?)


 そこで、彼は理解した。

 『今の自分』にも質量があり、そして、服を着ていた。




 真っ暗なので、何も見えないが、どうやら、制服を着ているらしい。

 そして、スラックスのポケットに何か入っている。取り出して、感触を確かめ、



(なんだ、これ……ケータイ?)



 それは、スマホタイプの携帯情報端末だった。

 液晶部分に触れると、瞬時に起動して、スゥっと光を放つ。






 ――『G‐クリエイション』――





 『星を模ったようなロゴ』が浮かび、メインメニューが表示された。




(見たことがないタイプだな……それに、アプリが一つしかない……)



 メニュー画面が表示されると、右上に一つだけアプリがあった。

 唯一のアプリケーションの名称は、



(創世アプリ……)




 なんのこっちゃ分からなかったが、

 『彼』は、ほかにできることもないので、試しにそのアプリを起動してみた。

 すると、






 『干渉圧縮率の設定をしてください』






 という項目の下に、数値を打ち込める空欄があった。

 もちろん、意味などわからなかったが、

 しかし、彼は、テキトーに、




(なんじゃ、これ……まあ、いいか。よくわからんけど……じゃあ、28)




 何の思惑もなく、彼はその数字を打ちこんだ。

 その瞬間、足元で、ポっと小さな火の玉が発生した。



 着火する。



 灼熱が『全て』になる。

 無が燃えあがる。



 暫定真空という零次エネルギーの誕生。

 世界が産声を上げた瞬間。



 一秒という単位に永遠を感じるほどの、

 気が沈んでしまいそうになるほど短い時間の中で、





 急膨張していく。





(なんだ、なんだ?)



 困惑している『彼』を置いて、次第に、世界の温度が低下していく。

 クォークやレプトンが結合して陽子・中性子・電子になる。

 やがて、原子が生まれる。






 『おめでとうございます。世界が誕生しました』






 ――こうして、全てが始まった。



 しかし、


(……ワケわからん)


 当の本人は、眉をひそめることしかできない。


 ただただ困惑していると、



 ――『時間加速アプリがアンロックされました』



 そんなメッセージが端末に表示された。



(アンロック?)




 なんだかわからないまま、メニューに戻ってみると、

 創世アプリの横に、時間加速のアプリが追加されていた。




(最小二倍、最大十億倍まで時間を加速できる……か……)




 アプリを長押しして、プロパティを開いてみると、細かい説明が表示された。



 時間加速アプリ。

 文字通り、時間を加速させることが可能な機能。

 二倍から十億倍まで時間を加速することができるが、時間を戻すことはできないアプリ。



(さっきの訳わかんない衝撃が、仮に……もし、いわゆる、ビッグバン的なアレだとしたら、今から数十億年くらいは、下地作りで、面白いことは何も起こらない……)



 どうやら、段々と、現状を理解しはじめたようで、朧な『知識』を掘り起こし、



(まあ、どうせ、他にやれそうなこともないし……ちょっと、付き合ってみるか)


 ニヤっと笑う。



 何もない無の中を永遠に彷徨い続けるよりは遥かに面白そうな現状に、

 『彼』は、没頭しようと決めた。


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