それでも……

それでも……


 腐るほどある異世界転生モノの主人公となんら変わらない。

 ただ、ちょっと変わったチートを持っていただけの高校生、その延長。


『無理だから……勝てないから……もういいだろ……?』


 誰に尋ねているのかすら分からない問いかけ。


 近くには誰もいない。


 神が相手では他の誰も相手にならないから、

 魔法やアイテムを使って強制的に、転移させた。

 一緒に闘うと言った者は多かったし、

 せめて支援だけでもと粘った者もいたが、

 現在、この世界にはセンとバーチャ以外、誰もいない。



『頑張っただろ……俺、頑張ったよな……誰がここまで出来るんだよ……ここまで、世界を守ってきただけでも、やりすぎっていうか、頑張りすぎだろ……』


 溢れ出る。

 こぼれる。


『褒めなくていいよ……喝采も、賛美もいらない……だから……どうか、【諦めていい】って許可だけくれ……それ以外は、もう、何も望まないから』




 圧倒的な力差を前に、センは、漏れ出る弱音を、吐きだした。



『苦しい! 苦しい! 今日だけじゃねぇ! ずっと苦しかった! もう嫌だ! なんで、俺ばっかり! どうして、俺ばっかりが、こんな苦労をしないといけないんだ! 異世界転生モノっていったら、流行りはスローライフだったろ! もしくは、チートで楽勝が相場だろ! しんどすぎるんだよ、ずっと、ずっと、ずっとぉおお!』




『ん……なんだ、まだ生きていたのか。しぶといな。というか、なにを喚いている』




『もういいだろぉおおお! もういいはずだ! 俺なら許可をもらえるはずだ! 諦めていいはずだ! なのに! なのに! なんでぇえええ!!』



 ガラっと、ガレキが動いた。

 絶望の『底』で、センは蠢く。

 血だらけで、傷だらけの、クソかっこわるい姿で、

 みっともなく、涙と鼻水をたらしながら、


 それでも、

 どうにか、ガレキをどかして、


 立ちあがり、



『はぁ、はぁ……』


 呼吸あらく、涙のかすむ声で、


『はぁ……はぁ……くそったれ……なん、で……立つんだよ……』




『それは、私のセリフだろう。そして、ぜひ聞かせてもらいたいな。なぜ立つ? 勝てないのは分かったはずだ』




『俺は……ヒーローじゃない……』




『だろうな。そんなみっともない姿をした者を英雄とは呼ばない。英傑、豪傑、真なる強者……それは、この私にこそふさわしい言葉。すべてを超える神になる、私にこそふさわしい称号。貴様程度が名乗っていいものではない』



『それでも……』



『ん? 何か言ったか?』




『叫び続ける勇気を……』




 センは、ギュっと握りしめた拳を胸にあてて、



『ぶっ壊れて、歪んで、腐って、けれど、わずかに……でも確実に残っている、この想いのカケラを……』




 吐きだした水素イオンが世界に溶けていく。

 空は青くて、雲は白くて、



『集めて……最後の……最後まで……抗ってやる』


 目の前に全部を並べて、揃えて、

 だから、センは言う。


『俺は、センエース。全世界の頂点に立つ、生命の王』




 パァァァっと、何かが開く音が、

 確かにした。



『人間をナメるなよ、神……俺を殺し切ってみせろ』



 全ての弱さを飲み込んで、

 仮面を捨てて、

 さらけ出した想いが、結合して、収束する。



 ついに花開く。



 世界戦争を終わらせ、バグを殺しつくして、

 それでも、まだまだ発展途上だった、

 『センエース』という、世界一の可能性。



 ついに、センの中に眠っていた神種が、輝きだす。




『ほう……神種が開花したか。ずいぶんと珍しい場面に出くわしたな。……くく……しかし、無駄だ』


 バーチャは、余裕の表情を崩さず、


『神になったものは、現世では大きな制限を受ける。例外は私だけ。神の中の神である、この私だけなのだ。貴様は神に成ったことで、むしろ、今までほどの力すら出せなぐぼはぁああああああああああああああああああああああああああ!!』




 右ストレートでぶっ飛ばされたバーチャ。

 血の味を飲み込みながら、


『バカな………ぐほっ……な、なぜ……』


 ドクドクと鼻血を流す神を睨みながら、


 センは言う。






『ヒーロー見参……』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る