第87話 しっかりと支度を
秘銃の入った桐箱にしっかりと封をし、側に控えていたコボルトが持ってきてくれた風呂敷に包み込み、背負った上でしっかりと体に縛り付け……そうしてから俺達は吉宗様に挨拶をした上で、江戸城を後にした。
「これで鉄砲が手に入ったから……後はクロコマの弓と縄梯子かな」
江戸城を後にし通りを歩く中で俺がそんな言葉を漏らすと、名前を呼ばれたクロコマが、トトトッと俺の前に出て首を傾げながら言葉を返してくる。
「弓はともかくとして縄梯子は……必要なのか?
鉄砲と弓、それとポチ殿の小刀があれば、それで事足りるように思えるがな」
「攻撃をするだけならそれで十分だろうが……俺達はまだあの洞窟の一端を見ただけに過ぎねぇからな。
あの洞窟には更に奥があって他にも親玉がいるなんて可能性もあるだろうし、ドロップアイテムの回収のこともある。
……あの大猪鬼が何をしでかしてくるか分からねぇってのもあるし……念には念をってやつだな。
一つ問題があるとすれば……縄梯子を一体全体何処に固定するかってのが厄介でなぁ、近くに大木でもあれば楽だったんだが……」
と、俺がそうクロコマに返すと、話を聞いていたポチとシャロンは『確かに!』と異口同音にそう言って……どうしたものかと悩み始める。
ダンジョンは基本的に壁や床を破壊することは不可能だ。
当然穴を掘るなんてことも出来ず……杭を打って縄梯子の支えとするというのは難しいだろう。
木や岩があればそれに縛り付けるくらいは出来たのだろうが……あそこにあるのは草だけでそれも難しい。
この黒刀を持った俺の重さは相当なもので……そんな俺を支えるとなると、ちょっとした仕掛け程度のもんでどうにかするというのも難しいだろう。
「……ならば解決法は二つしか無いだろうな。
一つ、ワシの符術で固定する……その場合ワシは梯子の固定の為に上に残らねばならんだろう。
二つ、狼月がその腕で縄梯子を固定する、というか縄梯子を持ち続ける……狼月であればワシらコボルトの体重を支えるなんてことは造作もないことだろう。
つまりはまぁ、あの大猪鬼を上から攻撃して倒した後は……どちらか一人を欠いた状態で下に降りてドロップアイテムの回収や調査をする必要があるという訳だな」
その小さな指をぴんと立ててなんとも得意げな顔でそんなことを言ってくるクロコマ。
その言葉を受けて俺は……数秒悩んでから、言葉を返す。
「そういうことなら俺が上に残った方が良いだろうな」
「ほう、それはまたどうしてだ?」
すかさずクロコマがそう言葉を返してきて、ポチとシャロンも同じことを言いたげな表情をしながら俺へと視線を向けてくる。
「どうしても何も、そんなことの為に符を使うってのはもったいねぇにも程があるし……俺が上に残ったなら、いざという時に縄梯子ごとお前たちを引っ張り上げるって力技が可能になるからな……それを思えば俺が残った方が良いだろう?
追加の猪鬼が出てきたとしてもポチ達なら十分やり合えるだろうし……この鉄砲があれば縄梯子を掴んだまま援護攻撃なんてことも可能だろうし……クロコマの符は下で使った方が活躍出来るだろうしなぁ。
今更ポチ達の腕や判断力を疑う理由もねぇしなぁ……俺が上に残って後のことはポチ達に任せるとするよ」
その視線に応える形で俺がそう言うと……ポチもシャロンもクロコマも、なんとも満足げな表情を浮かべてうんうんと頷く。
自分達コボルトに任せておけ。
とでも言いたげな表情を三つ揃えて同時に頷く三人を見て……俺は何とも言えず苦笑を浮かべる。
「縄梯子は……買っても良いんだろうが、出来るだけ丈夫なやつを用意したいからな、牧田に頼んで良いやつを拵えてもらうとしよう。
弓も……弓師の知り合いはいねぇからなぁ、牧田に頼めばなんとかしてくれるに違いねぇ」
牧田自身が拵えるか、知り合いの弓師に頼んでくれるかは知らねぇが、牧田なら上手いことやってくれるだろう。
コボルトに合わせた大きさの弓でも良い竹を使ったならそれなりの威力になるだろうし、シャロンがいるんだ、鏃に毒でも何でも塗ってしまえばかすり傷でも十分な効果が得られるはずだ。
更に秘銃がありポチの小刀があり……あの大猪鬼は中々厄介そうな相手だったが、なんとかできそうな算段は整ったと言って良いだろう。
……まぁ当分は、あの洞窟の中にはいかず、俺は鉄砲を上手く扱えるように練習して、クロコマもまた弓矢を上手く扱えるように練習して……通常の猪鬼を何度か相手をしてみて、実戦慣れしておく必要があるだろう。
三日か四日か、はたまたそれ以上か……油断出来ない相手だからこそ、準備は入念にやっておきたいものだなぁ。
「ま……今日の所はやれるだけのことはやったし、ちょっとしたドロップアイテムって成果もあったし、それで十分と思っておくとしようじゃねぇか。
……軽く飯でも食っていこうと思うんだが、ポチ達は何処か行きたいとこはあるか?」
考えをまとめて、軽く手を打って考えるのをやめて……そうしてから俺がそう言うと、ポチ、シャロン、クロコマは尻尾をぶんぶんと振り回しながら一斉に声を上げる。
「コボルト屋でしょう」
「コボルト屋がいいです」
「噂のコボルト屋とやらに行ってみたいのう」
そんな三人の声を受けて小さく笑った俺は、通りから脇道へと入り、脇道の曲がり角を何度か曲がり……良い匂いの漂ってくる、コボルト屋のあるあの空き地へと足を向けるのだった。
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