なにわの女
「知ってた? あのさ、大阪市の車って大阪ナンバーじゃないんだよ。おかしくない? 大阪市なのにだよ」
ことさら明るい声でわたしは話す。電話の向こうの静寂に言葉を投げるように。
「へえ」
興味のないことがありありとわかる生返事。胃がしくりと痛む。それでも自分を鼓舞して言葉を継ぐ。
「何ナンバーだと思う?」
「さあ」
「あのね……『なにわ』ナンバー」
「はあ」
上滑りしている。冷や汗が出てくる。車好きの彼なら少なからず食いついてくれると思ったのに。
眼下の夜景のまぶしさが目に染みる。
彼が不機嫌なのも無理はない。
断れなくもない出張だった。それでも上司の覚えめでたき存在であるために同行したのだ。恋人との記念日だというのに。
もうだめなのかもしれない。
袖摺れのふたりはどこにもいない――。
「それよりなんでおまえ部屋にいねえの?」
「え?」
「710号室っつってなかった? 早く入れてよ、ケーキ崩れるから」
不機嫌な声はそう言うのだった。
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