ナミちゃんはかわいい
ナミちゃんはかわいい。
ナミちゃんはいい子。
それは、あたしがいちばんよく知ってる。
今日のナミちゃんは、朝からおしゃれに余念がない。
白いウールのワンピースを頭からすっぽりとかぶるように着て鏡を見ているナミちゃんは、羊みたいだ。
最近ミルクティー色に染め直した肩までの髪の毛をくるんと内向きにカールし、ニッセンで買った赤いドレッサーの前に座って、たっぷりと時間をかけてメイクをする。
新しいサーモンピンクのつやつやした口紅が、とってもよく似合ってる。
仕上げにココナッツの描かれた香水瓶を持った腕を高く上げて、空中にしゅっしゅっとスプレーし、その下をさっとくぐる。
そうすれば直接体にかけるより、全身をさりげなく香らせることができるのだ。
ナミちゃんはかわいい。
ナミちゃんはセンスがあっておしゃれ。
ナミちゃんは女の子らしい。
それは、あたしがいちばんよく知ってる。
「ナミ、ナミ、好きだよ」
ナミちゃんのミルクティー色の髪の毛をかきあげながら、ケイくんが熱っぽくささやく。
ナミちゃんの大好きなケイくん。同じ大学の男の子だ。
ナミちゃんは、ふふふ、と笑う。笑うと猫のように目が細くなる。
ベッドに並んで腰かけたふたりの唇が重なる。
ケイくんはナミちゃんをそのままベッドに押し倒し、ふたりは運動を始める。裸にならないとできない運動だ。
ふたりの息遣いが激しくなって、ココナッツの香りと汗のにおいが混じり合う。
運動が終わる頃には、部屋の温度が2℃くらい上昇したような気がする。
ナミちゃんはかわいい。
ナミちゃんは情熱的。
ナミちゃんは運動が好き。
それは、あたしがいちばんよく知ってる。
「じゃ、バイト頑張ってね」
名残惜しそうにナミちゃんのほっぺたにキスをしてケイくんが帰ってしまうと、ナミちゃんはベッドの下に手を入れる。
煙草・ライター・灰皿の3点セットがそこに常備されている。
ふーーーーっ。
ベッドに腰かけて深々と紫煙を吐きだしながら、ナミちゃんはしばしぼんやりと物思いに耽る。
おもむろに火を消すと、ナミちゃんはシーツを取り外し、お気に入りのミッドセンチュリーの二槽式洗濯機に突っこむ。
ごうん。ごうん。
洗濯機が回っている間、ナミちゃんは小さく鼻歌を歌いながら部屋中に除菌・消臭ミストを噴霧する。
ベッド周りは特に念入りに。そして、テレビ台の上に鎮座するあたしにも。
ナミちゃんは、あたしの長い両耳や小さなしっぽを、いつものように軽く撫でてくれる。まるで、小さな儀式のように。
この瞬間が、ナミちゃんが子どもの頃からずっと一緒にいるあたしの至福のひとときだ。
それからあたしの背後にある時計に目をやり、慌てたように着替えとタオルをつかんで脱衣所に飛びこむ。
やがて、洗濯機の稼働音にシャワーの水音がかぶさる。
ナミちゃんはかわいい。
ナミちゃんは清潔できれい好き。
ナミちゃんは優しい。
それは、あたしがいちばんよく知ってる。
「ナミ、かわいいよ。愛してる」
ナミちゃんのミルクティー色の髪の毛をかきあげながら、ショウマくんが熱っぽくささやく。
ナミちゃんの大好きなショウマくん。今日は、彼の来る日でもあったのだ。
ナミちゃんは、ふふふ、と笑う。笑うと猫のように目が細くなる。
ベッドに並んで腰かけたふたりの唇が重なる。
ショウマくんはナミちゃんをそのままベッドに押し倒し、ふたりは運動を始める。裸にならないとできない運動だ。
ふたりの息遣いが激しくなって、ココナッツの香りと汗のにおいが混じり合う。
運動が終わる頃には、部屋の温度が2℃くらい上昇したような気がする。
ナミちゃんはかわいい。
ナミちゃんはいい子。
それは、あたしがいちばんよく知ってる。
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