第7話 滝弁天
夢の中の景色をスケッチしたものを参考にして目的地を見つけたのは、9月も半ば過ぎた頃だった。
眼下を横切る川と高台との間の平地に鳥居や社が見える夢の中の風景。それに類似する景色は呆れるほど近所に存在していた。
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3人が住む白鳥台は、瀬越丘陵の南西端に位置する高台にある。高台は東西に伸びていて住宅街として開発された。
高台西側の端には今は貯水池になっている、かつて白鳥沢と呼ばれていた谷戸があった。
東側は高台中央部を過ぎる辺りから緩やかな斜面となり下がっていく。
山村邸は高台中央より東側で、斜面が始まる付近にあり東側斜面の頂点付近に位置していた。
白鳥台の住宅街からは見えないが、高台の下の平地には、あの適合者を受精する条件だった崎原神社があり、高台から見て神社の先には木津川があった。
当に高台の眼下に広がる景色は、夢の中の風景に類似しているのだ。
夢の風景との相違点もあった、例えば神社と木津川の間には川に沿って線路が敷かれていたし、線路の際にある住宅地も夢には出てこなかった。
年男は聡太郎の夢は、線路や住宅が整備される前、つまり過去の風景に感応したものだと推理していた。
崎原神社を重視して夢を読み解くことが重要であり、正確に夢の風景と今の景色を一致させる必要はないと考えていた、そこに拘ると正解には辿り着けないと年男はアリスに話している。
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白鳥台の住宅街からは平野の風景が見えないことを考えると、高台南側の平野へと下る斜面の何処かに中腹部が広場になっている場所があるはずだ。
そここそ聡太郎の悪夢が示す目的地なのだ。
白鳥台の高台南側は基本5〜10メートルほどの高さがあるコンクリートの土留めが整備されている。
なので土留めがない南側の斜面は限られている、また夢の中の風景から視点の位置を考えると、恐らく高台東側で間違いないだろう。
そこから割り出した場所が滝弁天と呼ばれている史跡だった。
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滝弁天は白鳥台のある高台南東の斜面中腹に鎮座していたと伝わっている弁財天を祀る祠のことだ。
滝弁天があったとされる場所は、崎原神社付近の古い集落に住む年配の人たちにしか知られていない。また今は祠もなく、その場所を訪れる人はいないという。
弁財天を祀るようになった由縁は、滝に住む蛇を鎮めるためだと伝わっているが、相当な昔から滝は枯れて無くなっていたようだ。
年配者たちが幼少の頃には既に滝どころか祠もなく、当時の老人たちから由縁を伝え聞いただけだった。
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