退妖師一門の跡取り娘ですが、幽世に行ってきます!

夢咲彩凪

第1話 私の秘密

「.....さん.....すずなりさん.....鈴鳴すずなりさん!」


 ハッとして顔をあげた私の目の前には女の人の顔をした鬼。


 .....じゃなくて鬼の形相をしたおばさん。


 .....いや本当は鬼の形相をした英語の安田先生だけど。


「何度私の授業で居眠りすれば気が済むんですか?そんなに私の授業がつまらないのですか?」


 はい、つまらないです.....という言葉を必死に飲み込む。


「すみませんでした」


「本当に困ったものですね。.....まぁいいです。以後気をつけなさい」


「.....はい」


 珍しく今日は早く解放されたわね。このおばさんみたいなタイプは謝っておけばなんとかなるのよ。


 でも.....眠たいものは眠たい。昨日も色々と大変だったし。


そのときだった。

 

シュッ


 ウトウトする私をバカにするように笑いながら、走っていく小さな影が五つ。


 .....また猫又ねこまたか。


 そう思った直後、今度は何かが争うような音が。


 何事かと思い周りを見渡すと、さっきの猫又と私のかわいいかわいい小玉鼠こだまねずみのナナが争っているのを発見。


 あの子、超可愛いのに戦う時だけは見るのが辛いくらい凶暴なのよね。


ナナ、おいで。


私が思念を飛ばすと嬉しそうな顔をして、興奮そのまま猫又五匹をぶっ飛ばしつつ私の方に駆け寄ってきた。


 いろいろツッコミどころはあるが。うん、可愛いから許す。


「あやちゃま。至急集合.....だそうでちゅ!」


「また?」


「最近、治安が悪いんでちゅ。早く行くでちゅ」


「わかったわよ」


 全く.....あの人も人使いが荒いんだから。


「先生!体調悪いので保健室行ってきます!」


「え、ちょっと.....鈴鳴さん!待ちなさい!」


 先生の静止を無視し、全速力で高校の廊下を駆け抜ける。


「もしもし?お父様?.....はい、今行きます」



 走りながらだが、私の自己紹介をしよう。


 鈴鳴綾菜すずなりあやな、16歳。


 生まれも育ちも鎌倉です。


 いつもはどこにでもいるような不真面目な女子生徒。


 でも実は.....


 裏の業界では有名な退妖師一門鈴鳴家たいようしいちもんすずなりけの跡取り娘。


 あやかしが多く住むここ、鎌倉で問題を起こす妖たちを成敗するのが仕事です。


 そして今は一門の長、お父様からの呼び出しを受け、現場に向かっているところ。


「ナナ、いる?」


「いるでちゅ!」


「場所は鎌倉駅周辺らしいわ。近くだから走るわよ」


「はーいでちゅ」


 私たちが走っていると、サッと目を背け逃げていく人や動物やどちらにも属さない生物たち。


 退妖師が通ると、こうなるのはいつものことだ。


 というのも.....


私たち退妖師とあやかしは敵対しながらもなんとか均衡を保っている。


 それは元々こちらの世界にいるべきではない彼らを問答無用で切り裂く時代もあったにも関わらず、問題を起こすあやかしたちだけを取り締まり、しかし問題を起こすあやかしたちは容赦なく切り裂く、そんな暗黙の了解のようなものがあるから。


 だからこそ、あやかしたちは私たちを怖がるけれど決して襲いかかってきたりはしない。


 そして稀に私たちに友好的なあやかしなんかもいるくらいだ。


 ナナなんて私付きの従者になっちゃったんだから。


 私は正直そんなあやかしが嫌いではない。


 むしろ.....好き。


 退妖師がこんなこと言ったら一門に殺される可能性だってあるから、言えないけど。


 でもこんなあやかしを殺すなんて仕事、できることなら今すぐにでもやめてしまいたいに決まってる。

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