第38話:恋は戦争と言うけれど【女子大生:飯島早紀】
この日も私、飯島早紀は晴斗君の応援に来ていた。明秀高校ベンチの一塁側の最前席に座って彼の雄姿を眺めていた。攻守交替の際には彼に声援を送り、晴斗君もそれに帽子を取って応じてくれた。視線と笑顔だけでなく声をかけてくれたらいいのに思い、それを試合終わりにからかうネタにしようと思った。
ほくそ笑みながらどうからかおうかと考えていると、5回の攻撃が終わった。明秀高校が待望の追加点を取って試合は中盤戦へと入る。私はこれで6回目となる声援を送るためにネットに近寄り声をかけようとしたら―――
「はるく――――――ん!!! 頑張ってぇ――――!!」
後方から聞き慣れない女の子の声援が晴斗君に飛んだ。甲子園を包む大歓声の中でもはっきりと聞き取れる声量とそこに込められた純粋な気持ち。晴斗君も当然その声に気付いて大きく手を振っていた。
私はむすっとするのを抑えて、振り返ってその人物を確認した。
小動物のような可愛らしい容姿。猫のようにクリッとした瞳が特徴的。肩口まで伸びる髪を一つ結びにした少女。彼女が今着ているのは明秀高校の制服だ。
「……あの子、野球部の、マネージャー?」
そういえば、野球部の練習を見学しに行った時にジャージ姿だったが見かけたことがある。高校生にしては小柄で私とは違って可愛い、まさに女子高生と言った子で、同性の私から見ても思わず抱きしめたくなる庇護欲を覚えた。
「あ、あの……少し、いいですか?」
「―――っえ? えぇ、いいですけど……」
少しの間ぼぉ―としていたら、その可愛い女に声がいつの間に私の目の前に立っていて声をかけてきた。
「えぇと……初めまして! わ、私は野球部でマネージャーをしてます、相馬美咲と言います! は、はる君には危ないところを助けてもらって……いや、そうじゃなくて! お姉さんははる君の……彼女なんですか!?」
策も弄せずただ真っ直ぐに本陣に特攻を仕掛けてきた戦士のような決死の覚悟が彼女、相馬美咲さんから感じ取れた。そしてこの質問から彼女が私の
「初めまして、相馬美咲さん。私は飯島早紀といいます。晴斗君とは
「わ、私は……はる君のことが、はる君のことを……す、好きです。だから、その……飯島さんには、負けませんから!」
これは彼女なりの精一杯の宣戦布告だ。なら、私もそれに応えなければならない。晴斗君を
「フフッ。あなたも晴斗君のことが好きなのね……なら私たちはライバルってことになるかな? お互い頑張りましょうね。私、負ける気はないからそのつもりでね?」
「は、はい! 私も負けませんよ!」
「う―――ん。相馬さん、可愛いわね。抱きしめたい……」
両手の拳をぐっと握ってきりっとした表情を見せるが、まるで子犬が必死に抗議しているようにしか見えず、可愛さしかなくて思わず本音が口から出てしまったようだ。
「えっ……」
そんな私の様子に驚いて一歩後退る相馬さん。さすがに欲望だだ洩れは引かれるか。しかしここで彼女と話が出来たのも何かの縁。隣の席も空いていることだしここは―――
「ねぇ相馬さん。よかったら隣に座って少し話さない? せっかく
「い、いいでしょう! 望むところです! わ、私の方がはる君のいいところをたくさん知ってますもんね!」
「フフッ。なら、私は晴斗君のカッコよくて……可愛いところを話そうかな」
相馬さんはやる気満々な様子で私の隣にドカっと腰かけた。実際は可愛らしくちょこんとだったが、目は真剣そのもの。しかし、どうしても小動物感が抜けていないのでついつい笑みがこぼれてしまう。
「フフッ。本当に相馬さんは可愛いわね。晴斗君の前に……私が食べちゃいたいくらい」
「……っえ? じょ、冗談ですよね……?」
「フフッ。さぁて、それはどうかな? そんなことより、晴斗君を応援しながら色々話聞かせてね、
「は、はい。なら、えぇと……早紀さん、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる美咲ちゃん。ほんと、このまま膝の上において後ろから抱きしめていいだろうか。可愛いが過ぎる。
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