善悪の向こう側(15)
変幻自在に飛び回る球体ユニットを狙撃できない。これが機動砲架の利点でもある。
人体への負荷を考慮する必要がなければ
(何なのよ、これ! 狙いどころがないじゃない!)
ジュスティーヌは臍を噛む。
(レギュームだって弱点が無い訳じゃない。制御負荷が重くて一人だと四基程度が限界だってこと)
機動制御はシステム頼りにするにしても、それぞれに機動及び火器の思考スイッチによる制御信号を送らねばならない。
(それとケーブルで繋がっていること。どんな形でも切断されれば終わり)
だから機体と
「繋がってないじゃないのよ!」
「なに言ってるのか分かんないし!」
漏れた苦言に
球体ユニットそのものはブレードを展開して高速回転させることで防御をする。なので狙撃を受け付けない。ならばとケーブルを狙おうと、当て推量でビームで薙いだり、ルージベルニとの間に飛び込んで斬撃を送り込んだが手応えがない。極細のケーブルで繋がっている訳ではないらしい。
(だったら電波制御? 複雑な信号を発せないから二基しか制御ができない?)
ターナ
(それなら本体からの離隔距離にも制限があるはず)
確かにレギュームほどは動いていない。それで確証を得る。
「だからって、こんなに素早く動き回って連射まで可能とか手に負えないじゃないのよ!」
「文句言ってる間に堕ちればいいし!」
離隔が取れないといえど三機編隊より結びつきが強い。三位一体のアームドスキンを相手しているように感じる。それでいて的は小さい。
「だったらぁー!」
「んなぁー!」
アームドスキン本体を狙うしかない。真っ向からブレードを叩きつけ合う。向けようとしたビームカノンの筒先は膝で蹴り上げられた。相手の筒先も肘で押しのけている。同時に発射されたビームは明後日の方向を貫いた。
その瞬間に背後からの輝線。三本の刃を纏めて回転させたドリルが背部に迫っている。咄嗟に回避したら、その位置へ水平に回転させて刃を円盤と化したユニットが接近。かろうじてジェットシールドで弾いた。
「ひぃ!」
「惜しいし」
(冗談じゃないわ。これじゃ息つく暇もありはしないわよ)
何の研究も無しに攻略できる気がしない。
(魔王め。どれだけの手札を隠し持っているというの?)
ジュスティーヌには偶発的な機能解放だとは想像もつかない。
「これ! 手が届いた! 剣王が到達してる善悪の向こう側にあたしも届いてる!」
「なに? 剣王? 善悪の向こう側?」
「パパの理念を貫きとおす為の純粋な
(なに言い出したの、この娘。剣王が到達しているところ?)
彼女には全く意味が分からない。
「分かる訳ない! 理念も何もなく、ただ戦いを欲してる女なんかに何も分からないし! 本当に必要なこと!」
「言ってくれるわね。じゃあ、なんで人類は戦争と支配を望んでいるの? ライナックを中心に押し立てたのは誰?」
「誰の所為でもない! 楽なほうに流れる人の欲望! 力に飲まれる強者の驕り! たまたま噛み合ったから歪んだだけだし!」
エオリオンを連射に沿わせて突進させる。
「善だというなら正してみせなさいよ!」
「あたしは善でも悪でもない! パパの意思の化身になる!」
背筋が凍る距離での連射を集中力だけでブレードに当てて弾く。コアが溶けたブレードグリップを投げ捨てる。球体ユニットが躱した先にはルージベルニがブレードを振りかぶっていた。
その前に右手のビームカノンを突き出して放つ。瞬時に横に交わした相手は機体をひるがえしてブレードで半ばから断ち切って過ぎさった。最後にはもう一基のユニットが三つの砲口をエオリオンに向けて待っている。
(終わった)
撃ち放たれたビームはカノンの残骸を持つ右前腕を破壊し、二発目がショルダーユニットを貫いただけ。
「へ?」
「にゃー! 弾体ロッドが切れてるー! 夢中で警報見落としてたしー!」
すかさずブレードが発生して斬り掛かってくるがもう遅い。左手で構えたビームカノンで球体のど真ん中を撃ち抜いた。
しかし、中破したエオリオンでは赤い機体とこれ以上継戦するのは困難。すぐさま後退に切り替える。
「全機、撤退なさい! 今日は負けよ!」
転回したジュスティーヌは部隊回線に苦渋の決断を告げた。
◇ ◇ ◇
「申し開きはいたしません。どうぞ裁定をください」
「やめて、アリョーナ。マフダレーナも」
隣で同じ姿勢の戦友にも声がかかる。
「あなたたちが作ってくれた好機に結果を出せなかったのはわたくしのほう。お願いだから責任を転嫁する恥をかかせないでくれる?」
「しかし……」
「誰の責任も問わない。今回の敵は今までのわたくしの戦い方では到底打ち破れないの。どうか力を貸してくれない?」
意外な願いが返ってきた。
「微力ながら閣下の為に力を尽くしたく存じます」
「どうぞご随意に命令を」
彼女はマフダレーナに続いて忠誠を誓う。
総司令官の戦意は未だくじけていないようで彼女は安心した。
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