残照の戦士たち(4)
「
作戦詳細を聞いたローベルトは神妙な面持ちで頷いている。
「やはり同志の糾合は必要不可欠と分かった。我々も急いで戦力の一角を為せるよう努力しよう。本流家の方に早く翻意を促さねばゼムナは国際社会で孤立しかねない」
「既に線は引かれている。国際軍事組織である
(国内問題だけでは無いとは当然認識しているのでしょう。ですが、この論旨のすり替えは少々強引ですね)
ジェイルは窺うが相手も政治家。簡単には内心は読ませない。
「君たちも現状を憂う気持ちは同じくしているのだろう? 剣王と同調する我々とも同志。今後は情報交換を密に行っていきたいと願っている」
連合を促してくる。
「各方面において連携していこうではないか?」
「考慮には値する」
「では、詳細を詰めていきたいと思います」
ローベルトの視線を受けてジャネスが話を引き取る。
「相互に連絡員を配置するとともに、その身分の保証を願います。また、技術格差を無くす為にそれぞれの独自技術を提供してもらいます。具体的にはアームドスキンを譲り受けて、技術者の交換も……」
「それは拙速に過ぎる」
(これは事前に打ち合わせてあった流れですね。彼女が軍備の実務を取り仕切っていると見せ掛けてしゃべらされています)
いきなり打ち出した提案にしては理路が整い過ぎている。
(さて、誰にしゃべらされているのでしょうね?)
「信用できないというのですか?」
ジャネスの声音に角が立つ。
「これからは我がハシュムタット革命戦線に大小諸々の反政府組織が集合するでしょう。兵力はともかく、装備に困窮するのは目に見えています。軍備補強は目処はありません。備えは急務なのです。それとも貴公は我が戦線のみが装備に劣り、攻撃の的にされるを良しとするとでも?」
「そういう話ではない」
「協力体制を拒むというのはその意志の表れとしか思えません」
追及が激しい。
「待ちたまえ、ジャネスくん。事を急ぐのもよろしくはない」
「しかし、
「まずは彼の言い分を聞こうではないか」
ローベルトは秘書官に飲み物の準備を命じる。一拍置いて空気を変えるつもりのようだ。それぞれが飲み物を口にして場が落ち着きを取り戻す。
「協力体制に何か問題でも?」
「基本の部分で思想を異にしている」
ケイオスランデルの言葉に紳士は首を傾げる。
「君らも現体制の在り方を問おうとしているのではないのかね?」
「問う気はない。繰り返し論じているように私は滅びを与えるだけ。それは本流家、傍流家に変わりはない」
「なんと傲慢な!」
ジェネスが目くじらを立てるがローベルトが制する。
「体制の崩壊そのものを目的としていると」
「そうだ。ライナックの政治関与から端を発した事態である。何を排除すべきかは説くまでもないと思うが?」
「それこそ拙速に過ぎると思うよ。政治中心から英雄の血筋の方々を除けば求心力は急激に低下する。それは国の衰退をも意味しよう。国を憂う気持ちと矛盾するのではなかろうか?」
(革命を謳う割には温和な方針を説きますね。それでは改革どころか刷新がいいところではないでしょうか)
ジェイルはヘルメットギア内部のディスプレイにサーモグラフィを重ねる。脳周辺を除き、大きな体温上昇は確認できない。相手は冷静に議論しているようだ。
「貴殿の方針は理解した。しかし、その真意を剣王に伝えた事はあるのだろうか? 彼も血統を問わずライナック排除を目的としている筈だが」
疑問をぶつけて様子を窺う。
「そこはすり合わせの必要性を感じているのだよ。私は心情的にはゼムナ議会議員である事をやめる気が無い。今も国民の権利や財産を守る義務を感じている。体制崩壊が国家崩壊に繋がるようでは困る」
「剣王が飲むとでも?」
「彼とてライナックの血統。ゼムナの崩壊を心から望んでいる訳ではないと思いたい。さすれば融和の道もあるのではないかと考えている」
(少し誘導してみましょうか)
彼は続く論調に毒を含ませる。
「では、本流家と剣王の和解を促す気なのか?」
「わたしが懸け橋となれれば幸いと思っている」
「ふむ。そのうえで協定者たるリューン・ライナックを頂点に導き、ゼムナの再興を望んでいると考えていいだろうか? その時、貴殿がどんな地位に就いているかは想像できん事もないな」
「失礼な!」
執務机を叩いたのは女性士官である。彼女は憤りを明らかにして睨み付けてくる。
「まるでマスタフォフ議員が戦局を政局の道具にしようとしているような言い草ではありませんか!」
「そんな意図など無いというのなら詫びよう。しかし、敵対する者同士の和解などという難しい役割を自らに任じようというのなら、何らかの思惑はあると考えるものだ」
「ただ単に故郷の未来を憂いているだけだよ。国民の信を得て議員の椅子に座っていた以上は、どうすれば国の将来を良くできるかとばかり考えるのは普通だろう?」
(本家の意を酌まずに議席を維持できていたとは考えにくいのですけどね?)
あまりに穿った見方だろうか?
(少し手の辺りが熱を帯びてきました。発汗も確認できますね)
それを見たジェイルは議論を次の段階に進めるべく言葉を重ねる。
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