第十二話

残照の戦士たち(1)

 フォトンシールドで防御しつつケイオスランデルを飛ばせる。集中するビームは力場を貫けない。形成そのものにはかなりの出力を必要とするが、ジェットシールドのように着弾で負荷が掛からない。シールドコアが溶け落ちたりはしない。


 引き寄せたところで瞬時に反転し腕の三門のビームを時間差で連射。弾けるように散開する敵機の群れに突入してフォトンクローを振るう。通り抜けざまの三本の爪の攻撃で四機が解体されて誘爆する。


 大気という抵抗の高い環境下では加速は重い。反重力端子グラビノッツの出力を質量0%まで上げて飛行していても身体に掛かるGは宇宙空間ほどではない。パワー任せの機動も可能。

 機体サイズで空気抵抗に差は出るもののそれは僅かで、通常サイズの敵アームドスキンも条件は同じ。大気圏での戦闘は縮尺を小さくしたような感覚になる。短い距離に大きな的があるので、より駆け引きが重要になってくる。


「退いていくよ、魔王様」

 ヴァイオラのクラウゼンが自慢げに指差す。

「当然だろう。遭遇戦のようなものだ」

「あいつら、馬鹿なんじゃない? なんであんな戦力で勝ち目があるって思ったわけ?」

「地上戦力だ。おそらくは血の誓いブラッドバウ以外は十把一絡じゅっぱひとからげの装備しか持ち得ないと考えている」

 数が多いだけで機体性能では勝っていると思ったのだろう。

「これで魔王様の怖ろしさを思い知ったよね?」

「次からは対応が変わる。厳しくなると思っておけ」

「そうだよ。油断していてくれたほうがよかったのに、降下直後の出会い頭であいがしらなんてさ」

 マシューは分かっていたというふうだ。

「うるさい、ゴミクズ! あんたなんかに魔王様の深いお考えが分かるわけないでしょ!」

「ひでえよ。オレだって色々考えているのに」

「考えてるなら一目散に突っ込んでったりしないわ、ゴミ!」


 それでもマシューに付き合ってフォローするのだからヴァイオラも心根は優しい娘だ。そう思えば二人のやり取りも微笑ましく見えてくる。


「パパー、追撃しなくていいの?」

 ルージベルニも戻ってきた。

「深追いは無用の刺激になる。やめておけ。地上は監視の目が濃い。どこから攻めてくるか分からんぞ」

「はーい。じゃ、帰ろー。お腹減ったし」

「ああ、思わぬ連戦になった。パイロットは休息させる」


 ポレオン砲撃作戦後、降下した地獄エイグニル艦隊三十隻は早暁の中、二百機ほどのゼムナ軍機と遭遇する。位置的に、騒乱の中で決起して脱走した左派勢力への追撃のようだった。

 目標を変更した部隊を彼らは迎撃。いち反政府組織と嘗めて掛かった相手を撃退した形だ。


(左派勢力にとっても幸運だったと思っておきましょう。いきなりの衝突は防げたのですから。接触しやすくなりました)

 ジェイルは目算する。


 当初より左派勢力とは接触するつもりであった。それを企図して彼らが集合するというハシュムタットの近い辺りを降下ポイントに設定したのだ。

 なので追撃部隊との遭遇戦は彼の頭の中では織り込み済み。パイロットへの待機も継続させておいたのだった。


「アームドスキン全機帰投。収容後は衛星都市ハシュムタットに向けて移動する」

 旗艦ロドシークに命令を送る。

「了解でさあ。全艦、さっさと迎え入れろ。戻った奴からベッドに蹴り込んでやれ」

「嫌ー! シャワー浴びたいし!」

「好きにしなさい。きちんと栄養補給もしておくように」

 ヴィスの言に文句を返すニーチェに言い聞かせる。

「パパは?」

「少し機体の調整が必要だ。後で休む」

「つまんなーい」


 操縦に違和感を感じていたのだった。


   ◇      ◇      ◇


 ジェイルはヘルメットギア内部に戦闘中の仮想映像を映し出し、コンソールパネルで調整を行っていた。傍から見ればパイロットシートに座ったまま何らかの操作をし続けているようにしか見えないだろう。


「お手伝いしますよ、閣下」

「オズウェルか」

 透過性映像の向こうに現れたのは整備士のオズウェル・リッチェルである。

「忙しかろう。私は一人でも構わない」

「設定替えはウォーレンがきっちり人間を配置してますよ。それより閣下のケイオスランデルが思い通りに動いてくれないほうが問題ですって」

「では頼もうか」

 戦闘映像を外部パネルに替える。

「どこです?」

「ここだ。思考操作の進路より沈む」

「これは姿勢制御の問題かも。普通のアームドスキン用のパラメータが入ってるんですか?」

 彼は自分の整備コンソールから数値を表示させて見比べる。

「違いますね」

「一応は重量バランスから算出した値をドゥカルが入れている。だが、空力抵抗の算出には実験を伴っていなかったのだ」

「こいつは特殊形状をしていますもんね」


 モードは切り替えたが、推進時の機体傾斜の角度が宇宙仕様のままになっている。その時の空気抵抗が想定以上に高く、傾斜が高まる事で機体が下方に沈む傾向を見せていた。


「傾斜はそのままじゃないといけないですよね? それなら推進機ラウンダーテールのフィンの角度を上げます。これで必要以上に前傾しなくなりますよ」

 シミュレーション結果から変更値を割り出して入力していく。軽そうに見えてもオズウェルは確かな腕を持っていた。

「助かった。傾斜角に手を入れるつもりだったからな」

「言っちゃ悪いけど素人考えですね。こういうの、ドゥカルの爺さんはやってくれないんですか?」

『そなたの姿が見えたからの。ちゃんと正解を出せるか様子見しておった』

 現れた老爺のアバターがしれっと言う。

「こんな時でも試されてんですか? 勘弁してくださいよ」

『儂も全てのパイロットの面倒を見る訳にはいかんでの。そなたらの技術向上は不可欠なのじゃ』


 コンソールパネルの端に受信アイコンが点滅する。発信者はヴィスだ。彼はすぐにタップした。


「こんなん流れてますよ、ケイオスランデル。一応は見ておいてください」

「分かった」


 別パネルを立ち上げると演説映像が流れる。それはハシュムタット革命戦線を名乗る左派勢力の決起宣言だった。

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