魔王顕現(4)
衝撃の事実から皆が覚めやらぬまま施設長のニコールが一度場を締める。
解散後、自室に下がるジェイルにニーチェも付いていく。それが当たり前であるという意識もあるし、分からない事だらけでどうにも収まらない所為もある。
「パパはいつからケイオスランデルなの? 変わってしまったの?」
ソファーの隣に腰掛けたニーチェはヘルメットギアに触れる。彼はそれを脱いでみせた。
「最初からだよ。僕がこれを被っているうちはケイオスランデルをやらなくちゃいけない」
「うん、変わらないパパだし」
本当に変わらない。口調も物腰も。
銀灰色の髪はギアの所為で押さえられてしまっているが、涼しげな目元に深淵を思わせる黒い瞳、柔和な面持ちも何一つ変化はない。あれから一年以上、もう既に三十歳になっている筈だが、ハイエイジの学生と言っても通じそうな若さを保っている。
「でも、変だし。パパはずっとあたしと暮らしてたのに」
裏から操っていただけというには皆が彼の存在を認知している。
「リモート生体を使っていたのさ。ドゥカルが作ってくれた」
「リモート生体? ケイオスランデルの人形?」
「ちょっと違うかな」
彼は苦笑する。
ジェイル曰く、彼のコピーなのだそうだ。遺伝子から作成し、ほぼ同じ体構造を有しているクローン生体である。それに記憶や思考パターンを転写し、人として活動できるほどに完成させたもの。
「それでも完全に僕でもなければ人間っぽさも足りない。あまり長期運用は好ましくないから直接指揮を執っていた時間は限られるね」
通常は作戦指示書を作成して運営していたらしい。
「演説してたのはパパのクローンのほう?」
「そう。あれも僕が内容を全て組み上げてしゃべらせていただけさ。そのくらいは簡単なんだけど、さすがに戦闘となると無理なんでね、その時だけは直接繋げて操ってた」
リモート生体の脳には
ジェイルは通信可能状態で意識を全て傾けなくてはならないが、リモート生体はどんな環境下でも稼働可能だという。
「そっくりそのままパパなの?」
クローンならばそうだろう。
「その筈さ。僕もいずれはこうして生身でケイオスランデルをやるつもりだった。でも二重生活をしているうちはバレてもいけないから、リモート生体にはヘルメットギアを着けさせなくてはいけなかったんだよ。魔王になるスイッチでもあるしね」
「筈って、他人事みたいだし」
「入れ替わる瞬間しか僕は彼に会ってないんだよ」
奇妙な事を言う。
「入れ替わる? そうだ、パパは殉職したんだったし! 何で生きてるの?」
「本格的にケイオスランデルをやるには僕が生きていないほうが好都合だったんだ。そうすれば君にも両親にも迷惑を掛けなくて済む。万全を期してムスタークのほうにリモート生体を乗せていたんだけど、塵一つ残らなかったみたいだね」
ニーチェも父の遺体は欠片一つさえ見ていない。
「だからリューン・バレルがパパを殺したって勘違いしたし!」
「それは彼には申し訳ない事をしたね。完全な濡れ衣だ」
ニーチェは
「僕の個人端末が勝手に動いた? なるほど。自然な流れと言いながら余計な手回しをしてくれたものだね、ドゥカル?」
彼はヘルメットギアを睨む。すると老爺のアバターが浮き上がった。
『おお、怖い怖い。睨むでない』
「恨みたくもなるさ。娘を巻き込みたくなかったのに」
『選択肢の中ではマシなほうであろう? 身を置きやすい小規模組織に入り込んで犬死にするよりはの』
ジェイルの視線の冷たさは変わらない。険悪な空気になる。
「そ、そうだ! ドゥカルのお爺ちゃんってゼムナの遺志だった。あたしなんて縁が無いと思っているから全然気付かなかったし」
『ほっほっほ、バレてしもうたの』
「気付かなかったのかい? 君はルージベルニの中だけでドゥカルと接していたんだろう? アームドスキンには
指摘されて初めて気付き、ニーチェは「ひゃあっ!」と嘆いて頭を抱える。
平常時ならともかくターナ
「あたしってば馬鹿っぽい。恥ずかしいし」
顔がちょっと熱い。
「でも馬鹿さ加減は育ての親譲りかも」
「どういう意味かな?」
「だって捜査官と魔王を同時にやろうなんて馬鹿すぎるし。筋が通らないもん」
本当に訊きたかった事を切り出した。
「僕なりに色々と考えたのさ。……うん、君には全てを話しておくべきだろうね」
ジェイルは魔王を名乗るに至るまでの過去を語り始めた。
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