紅の堕天使(2)
(もしかして、この娘、異能者?)
マーニ・フレニーはそうとしか思えないでいた。
英雄ライナックの遺伝する異能とは異なるようだ。公には認められていないが、かの一族の異能は相手の攻撃が見えるものらしい。ニーチェは命の灯りが見えると言っている。確認の必要を感じた。
「どのくらい見えるの? あたしたちだけかしら?」
程度によってはとんでもない能力だ。
「森の中にはいっぱい。あまり目を凝らすと怖いから見ないようにしてるし」
「結構な範囲で見えているのね。遠くの人口密集地とかも見える?」
「そこまでは無理だし。二つ先の尾根くらいまでしか見えてないもん」
(それでも十数kmはあるわ。宇宙空間の有視界戦闘でも識別できるじゃない)
大幅な優位性を保てる。
「まさか周りが全部が見えてるのん?」
ここに至ってトリスも異常性に気付いたらしく汗を垂らしている。
「うん、全天見えてるし。そんなの
「σ・ルーンでも無理なのん」
「あれ?」
指摘されてようやく事態の重大性にニーチェは気付き始めているようだ。
「おかしいって思わなかったのかよ」
「でも、サナルフィに乗った途端に見えるようになったから、σ・ルーンかどっちかの機能だと思ったし」
初めての経験が重なればそちらを疑うのは変ではない。しかし、アームドスキンや
「サナルフィを降りても見えるからσ・ルーンの機能だと思ったんなら取ってみれば良かったのん」
トリスが具体的な方法論を持ち出す。
「そうか。……おー、見えたまんまだし」
「真っ先に外してみろよ」
「パパが昼間はずっと着けてたから、アームドスキンパイロットってそういうもんだと思い込んじゃってたし」
彼女にとっては固定観念になっていたようだ。
「でも、寝るときは外すだろ?」
「あたし、眠くなってベッドに入ったらすぐ寝ちゃうもん」
「横になったら三秒で寝るタイプかよ」
他にも外すシチュエーションは有りそうなものだが思い込みで気付かなかったらしい。
「ニーチェはおとぼけさんなのん」
「しゃーねーなぁ」
三人は笑っているが、マーニはドナと顔を見合わせて目を丸くする。笑って済ませられるような類の話ではないと思うものの、本人がこうもあっけらかんとしていると深刻に扱うのも気が引ける。
まだ報告できる材料を持っていないマーニは、ニーチェを要観察と位置付けた。
◇ ◇ ◇
世間はホビオ・ライナックの裏稼業に対して批判を強めている。アナベル事件より強まっていた傾向だが、火に油を注ぐ結果になってしまった。
本人は娘が犠牲になった事で
(度を弁えないからこうなるのだよ)
エルネド・ライナックは辛辣に見ている。
(傍流の跳ね返りどもも、これで幾分か大人しくしてくれないと困るな。本家の批判にまで繋がるようならまた切り捨てられると自覚してもらわねばならない)
自ら首を絞めている現実に気付いてほしいものだ。
(厄介な問題はこっちのほう)
彼は偵察部隊の帰還を待っている。
ゼムナ軍が問題視したのはホビオの犯罪行為ではなく、ポレオンで
軌道艦隊を戦闘で半減させ防備を脆弱化させた反政府組織『
結果として現状を把握していなかった情報部は苦言を呈される。軍内部で高い発言権を持ち、精鋭で構成されておきながら何をしていたのか、と。
遡ってフレニー調査事務所の捜索も行い、何ら情報も得られなかった彼らは逃走したクラフターの追跡に切り替える。隠密航法で姿をくらましている戦闘艇を衛星カメラの解析や痕跡調査で追尾していた。
「ポール組は不発か」
エルネドが属するS16部隊も追跡に加わっている。クラフターが山岳地帯へ逃げ込んだところまでは判明したので偵察隊を出して確認に動いていた。
(成果を挙げて取り戻させてもらう。このまま終わってなるものか)
期待の星だったエルネドも『横紙破りのジェイル』に土を付けられて以降は評価が低い。看板倒れだと陰口も聞こえてくる。それが我慢ならない。
ポレオン警察を手玉に取って逃走した
コクピット待機のままのエルネドは朗報を待っていた。
◇ ◇ ◇
「ジェロ、この谷を回り込んだら一回戻るぞ」
「もうそんな頃合いか、テニーベ。帰りたくないなぁ」
相棒はそんな愚痴をこぼす。
「ああん? ドートレート隊長は手ぶらで帰ったからって何も言わないだろ? むしろ労ってくれる」
「いや、なぁ。問題は我らがエルネド君だよ。釣果無しで帰ると、まるで役立たずを見る目で睨みつけてくるだろう?」
「ああ、あれな」
テニーベにも心当たりがある。
「勘弁してやれよ。あいつは背負ってるもんが大きいんだからさ」
「だからってこっちに当たるのは筋違いだろ?」
「まあな。んじゃ、戻……」
言いかけたところでテニーベ組の前に
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