目覚める娘(11)
(マジで怖いし)
アームドスキンという人型機械は、巨大に見えてもスケール的には人体の十数倍に過ぎない。指一本の直径は20cmに満たないし、手の平の広さも1mとちょっとしかない。それが10m以上の高さとなれば足場として心許ない事この上ない。
(漏らしそう)
本気でビビっていた。
マーニを手伝ってペット管理の倉庫の扉を開けたニーチェは先行して周囲の確認をする。リーダーの指示通りのルートに人目がない事を確認しつつ、ドナを始めとした三人が乗るサナルフィを誘導する。目的の倉庫近くまで到達したところでトリスに掬い上げられてしまった。
「みー」
「あー、降ろすの忘れてたし!」
急いでいたので肩に乗せた子猫をそのまま連れてきてしまう。
「盗んじゃった!」
「仕方ない仕方ないよん」
トリスは気楽に言う。
「ごめん。これから大変かもしれないけど、あたしのご飯を分けてでも食べさせてあげるから許してほしいし」
「心配ないよん。子猫一匹くらいの余裕はあるからー」
架空の名義で借りている倉庫の扉が遠隔操作で開けられる。
大型の倉庫の中には宇宙往還型のクラフターが鎮座している。二人を降ろしたアームドスキンは後部からカーゴスペースへと入っていった。
「これは?」
促されて操縦室までタラップを上がる。
「ベリゴール号よ。わたしが操縦士として三機を乗せて降下してきたわけ」
「じゃあ、四年も動かしてないはずだし」
「きちんと定期メンテはしているから心配無用」
彼女らが前任者と交代して四年だと聞いている。
「ロックしてきたぜ。いつでも発進可能だ」
「おまたせー」
「どうしますか? 少し情報整理が必要だと思いますけど」
パイロット組も操縦室に上がってくる。
「当面はここに潜伏するつもり。待ちなさいね、ドナ。わたしも全ては把握していないから今から調べるわ」
「その前に子猫のご飯が欲しいし」
「みゃーん」
呆れる一堂に縞ブチの子猫を掲げてみせる。ここまでくるとニーチェの感覚も麻痺してきていた。一度落ち着くべきだと思ってそう言ったのだ。
「そうね。まずは落ち着きましょ」
一つ息をついたマーニが備蓄庫から軽食を持ってくるよう指示する。
「状況は良くはありませんけど帰還が許可されているんですよね? それなら現状復帰を考える必要はないわけです」
「暴れても平気ってことー」
「少々ならね」
サーバで沸かしたお茶を口にしつつドナは方針を提案する。
「脱出を優先して考えるべきです」
「ええ。でも、あの男の繋がりが気になるわね。今までこんな事前調査の甘さは感じられなかったのに。来てるわ、メッセージ」
マーニが大きめの2D投映パネルを起動させてそこへと表示させる。
『ビント・フルグはライナックとの接触の可能性あり。該当者はホビオ・ライナックと思われる。かの人物に関する情報を添付する』
下には調査結果が続く。
「こいつ、バフアル商会と繋がってやがる」
ギルデが顔を顰める。
「正確にはバフアル商会を仕切っているのがホビオね」
「バフアル商会?」
「兵器密売を裏で仲介している商会よ。警察関係の押収品横流しに関しても噂があるわ。いずれにせよ真っ黒な人物ね」
ニーチェは何か引っ掛かる。
「ホビオ……? どっかで聞いた名だし」
「表では富豪として扱われているから
「きっとそうだし」
マーニは難しい顔で黙り込んでいる。ドナも何か言い出したくても言い出せない感じだった。
「これは出しに使われたのかもね」
ドナの様子を察してマーニが口火を切った。
「意図的に事前情報を渡してもらえなかったのでしょうか?」
「その可能性が高いわ。ホビオを釣り出す餌にされたっぽいわね」
「総帥閣下は私たちを切り捨てる気では?」
ドナが下唇を噛む。
「ケイオスランデルのお考えになる事は推し量れない部分があるの。一概にそう思わないほうがいいんじゃない?」
「ですけど相手が大き過ぎれば動きが取れなくなります」
「いっその事、こっちから仕掛けたほうが良くない? 離脱前にひと仕事して帰れって言われている気がしてならないの」
マーニは大胆な意見を述べる。
ドナは不安を隠せないようだが、ギルデとトリスはリーダーの意見に乗る。どうせなら騒ぎを起こしたほうが脱出は容易になるだろう。そのついでにライナックを一人破滅させられるのなら言う事はない。
「たった三機でどうにかなるの?」
ニーチェにはその辺りの感覚がまだ掴めない。
「俺らを何だと思ってる? 派遣された頃は最新高性能機として配備のし始めだったサナルフィを任されるような凄腕だぜ。傍流ライナックの私兵程度なら幾らでも相手してやる」
「ニーチェが処分し損ねた色惚けと、お馬鹿な欲惚けライナックをセットで処分してあげるよん」
「任せるし。あたしはこの子の名前を決めなきゃいけないもん」
全員が彼女を二度見する。
「それって急いでやらなきゃいけない事なのん?」
「え? でも、名前が無いと子猫も寂しいと思うし」
「みゃおん!」
さんざん頭を悩ませ、ニーチェは子猫に「ルーゴ」という名前を付けた。
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