紅の歌姫(6)

「機三が警備アームドスキンを制圧したら突入だぞ」

 ポレオン第三市警捜査五課長の指示に全員が答える。


 五課の捜査官はスキンスーツの上にプロテクタ、ヘルメットも装着し、完全防備の出で立ちで備えている。今、ジェイルが相手している五機目のアームドスキンが戦闘不能になったら突入だろう。


「呑気なもんすねぇ、先輩」

 シュギルは商船団の機体が逃げ出せないよう上空に待機しつつ言う。

「そう言ってやるな。連中だってしがらみが多い」

「だって裏取りをほとんど、というか全部ジェイル先輩がやってしまったんすよ? なのに調整だ準備だって時間ばっかりかけて、とうとう勘付いた商船団が出港準備まで始めたって言ったらようやく腰を上げたんすからね」

「臨検にまで踏み切って何も出なかったら悪い噂が立つからな。商社のほうから抗議があれば貿易庁からお叱りが来るだろ? 下手すりゃ自分らを信用してないのかと、軍もひとくさり言ってくるかもしれないしな」


 結局、機動三課で挙げた反政府組織の証言を証拠として回してから五日も経っている。捜査五課としてはもっと証拠固めをしたかったのかもしれないが逃がしてしまっては元も子もない。


「我が故郷が薬物犯罪に緩いと思われるのは腹が立つ。ここは一つ連中にも張り切ってもらわんとな」

 先輩捜査官グレッグにも思うところがあるようだ。

「これ以上忙しくなったら彼女も作れないっす。それは困る……、っと終わるっすね」

「これで俺たちはお役御免だ」


 ジェイルのムスタークが警備機の右腕をブレードで斬り飛ばす。返す切っ先が胸部中央のコクピットへと向かうとハッチが吹き飛び、操縦殻コクピットシェルが排出された。そのままでは貫かれると思ったパイロットが手動排出に踏み切ったようだ。


(ジェイル先輩も薬物案件程度で相手を殺したりしないっすよ?)

 その証拠にブレードの先はハッチの右の装甲寸前の位置で止まっている。


 捜査五課の署員が操縦殻のガードを手動で開け、落下の衝撃で気絶したパイロットを引きずり出す。同時に商船団の全四隻にも武装した捜査官が大挙して突入していった。


(後は捜索で麻薬そのものか輸送記録が引き出せたら終了っす)

 ムスターク11番機を降下させたシュギルはひと息つく。


「シャノンさん、打ち上げの場所予約するっすけど、今日は来れるっすか?」

 個人の携帯端末で検索を始めながらオペレータのシャノンに部隊回線で呼び掛ける。

「どうしよっかな。いつものメンバーは集まるのよね。ジェイルは来ると思う?」

「娘さんの発表会が近いらしいっすから帰って準備かもしれないっすね」

「じゃあパスかな」

 彼女は面食いである。

「おいおい、たまには華を添えてくれよ。うちのチームの女連中と来たら……」


 グレッグの不穏当な台詞に女性パイロットが反応しようとしたところで共用無線に悲鳴が響き渡った。交易商船特有の後部大型カーゴハッチを強制開放させて突入しようとしていた署員がばらばらと逃げ出してくる。

 中から手が伸びてきたかと思うと一人を掴み上げる。そして追い掛けるように本体が姿を現した。


「アル・スピアだと!?」

 グレッグが驚きの声を上げる。

「うげ! ガルドワGインダストリIマニションズMの主軸量産機じゃないっすか!」

「どうしてそんな機体が?」

 その疑問には相手が答えてくれる。

「ちんけな小遣い稼ぎくらい黙って見逃してくれればいいもんを、騒ぎ立てやがるから商品を動かさなきゃならなくなっただろうが!」

「そんな物を積んでたってのか」


 GIMのアル・スピアはアームドスキン製造のトップクラス、ガルドワインダストリ製の高性能機体である。価格もそれに見合うもので、とても商船団が警備用に保有できる類のアームドスキンではない。

 だが、彼の言う通り商品であるらしく、固定ベッドからビームカノンまで装備して起こしていた。都市部で使用できるような武装ではない。主に宇宙空間で使用される武器を撃てば大きな被害が出てしまう。


「無闇に手が出せないぜ」

「完全にキレちゃってるっす」

 発砲も接近も躊躇われる。

「放しやがれ! くそっ!」

「人質は黙ってろ! 警察機どもは武器を下に置いて下がれ! おい、出航するぞ。今のうちにさっさと飛ばせ」

「行かせるな! 何してる、機三!」

 捜査五課長が吠え立てている。

「やってもいいが、あんたんとこの捜査官に何があっても目を瞑ってくれよ」

「馬鹿を言うな! 無傷で取り返せ! 何の為の機動部隊だってんだ!」

「うわ、出鱈目だな」


 言い合っているうちに出港準備が整ったようで船団が浮上を始める。機動三課のクラフター三艇で上空を押さえに掛かるが出航阻止は困難だろう。


「助けてくれぇ!」

「黙っていなさい」


 ビームカノンで威嚇されてバルカンファランクスを地面に置いていたジェイルの8番機がするりと動く。左手でヒップガードからブレードグリップを抜くと急接近してアル・スピアの左肩の基部を貫いた。

 取り落とした五課の捜査官を右手で受け止めるとそのまま後方へと放り投げる。慌てたグレッグが何とかやんわりと受け取った。

 8番機の後ろ向きの右手がひるがえって尖った爪を揃える。下から突き出したムスタークの爪はアル・スピアの頭部を粉砕していた。そのまま上体を引っ掛けて引き込み、跳ね上げた膝が胸部で派手な激突音を立てる。


「ありゃもう動けないな。シュギル、推進機を破壊してもいいから今のうちにこいつら落とせ」

「了解っす」


 商船団は機動三課のアームドスキン隊の砲口の前に停船を余儀なくされた。

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