地獄の住人たち(10)
ゼムナ軍軌道艦隊側は参謀部からの指示で四機三編隊十二機単位の小隊による包囲作戦を続行している。各小隊からの散発的な遭遇戦の報告は入ってくるが、確認の取れない小隊は未だ発生していない。
ターナ
参謀部は、
それ故に方針転換を講じる。包囲作戦の継続を演じつつ、時間稼ぎの間に離脱を図っているであろう敵の本拠地に中央突破で攻勢をかける作戦だ。
司令官は参謀部の進言でアームドスキン部隊を前面に展開してトラップを排除しながら艦隊による突入を指示。艦砲による本拠地撃破へと全艦に命令を発した。
◇ ◇ ◇
「で、俺たちには包囲の輪を狭めていると思わせつつ、軌道艦隊四十隻の露払いが命じられたわけだ」
戦闘空母エボニート所属の第一小隊長は簡単な説明を終えた。
「接敵すれば撃退しながら艦隊前面へと展開するんですな」
「そうだ」
「設置されている固定ビーム砲とかを排除して艦隊の道を作れば、後は艦砲攻撃で敵本拠地を撃滅すると」
先輩パイロットが噛んで含めるよう復唱する。
部隊行動に慣れてくれば聞き流しがちになるが、新人たちにはありがたい時間になる。勘違いによる齟齬を防止できるからだ。
「固定砲や近接爆弾って金属センサーに反応してくれますよね?」
新人は頭の中で訓練の反芻をしているらしい。
「そんなに難しいことじゃない。ほとんど的当てみたいなもんだ。高速機動さえ避ければ危険はほとんど無い」
「了解しました」
「作戦は解りましたけど、連中だって艦隊を繰り出してくるはずですよね」
4番機のパイロットは新人が気付いていない点に言及する。
本拠地は浮きドックだと目されている。そこには
「奴らはほとんどの戦力を各個撃破に割いているのが参謀部の見解だ。数機の直掩が守る戦闘艦を沈めるくらい訳ないだろう?」
先輩は安請け合いをする。
「まあ、そうですけどね。ジェットシールドで拡散ビーム砲塔の攻撃を防ぎつつ数射放り込んでやるだけで沈むでしょう」
「なるほど」
彼も一応の先輩として自分がすべき役割を演じて作戦周知に貢献する。
「それで作戦終了ってことですよね?」
「これが済んだら降下休暇もらえるっすよね?」
「騒ぐな騒ぐな。申請はしてやるから楽しみにしておけ」
新人は歓声を上げた。
(何だろうな、この引っ掛かりは。連中ってこんなに簡単な敵だったか? 確かに前代未聞ってくらいの大規模殲滅作戦だが、今まではこっちの網をあれほどすり抜けてきたってのに)
杞憂に過ぎないとは思うものの、彼は胸のもやもやが晴れないでいる。
発進の号令が掛かって小隊は推進光を瞬かせた。遭遇戦も無く、艦隊前面に展開した後はトラップの排除任務に集中する。
最短経路には相当数のトラップが設置されていたが、彼らは全てを破壊しつつ順調に進軍した。しかし、露払いを命じられた五つの小隊の前に黒い影が立ちはだかる。
「く、クラウゼン……! ケイオスランデルだぁっ!」
新人はモニターに表示された分析結果に動揺する。
「落ち着け! 阻止に来たのはこのまま進まれたら困るって意味だ。随伴機も潜んでいるだろうがおそらく少数。あれを墜とせばボーナス確定だぞ」
「で、ですけど……」
彼らも噂は耳にしているのだろう。怖ろしい敵だと。
「こちらは六十もいる。何も怖がる事はない」
「落ち着いていくぞ。
部隊回線で隊長の指示を受けていると、黒い機体は背中の長柄の武器を抜き突き付けてくる。先端の基部から薄く黄色く輝く3mほどの剣身が形成された。
クラウゼンが装備するフォトングレイブである。特殊な力場剣身を有する間合いの長い近接武器は彼らの間で怖れられていた。
「そのほうらの蛮勇もここまで。魔の王たる私が相手しよう」
共用回線から変調された声が聞こえる。
「我が爪が紡ぐ滅びを賜ること、光栄に思うがいい」
「全機攻撃!」
「無駄な足掻きだ」
クラウゼンは泰然と構えている。
周囲の岩塊から
「ひっ!
「一気に仕掛けろ! 奴らのペースに持ち込ませるな!」
「相対位置、注意! 抜かるなよ!」
(ここで来たか。でも、七機しか見えないぞ。この数で阻止できるとでも思っているのか?)
あまりに寡兵である。
(何の目算も無く出てくる相手じゃない。単なる時間稼ぎだと?)
そんな単純な動機だとは思えないでいる。
薄紫の輝線を身軽に躱した黒いアームドスキンは背部の
開かれた戦端は激しさを増していった。
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