第13章
第206話
「あれがドワーフ王国か……」
ドワーフ王国へ向けて1人の人間が近付いていた。
ペガサスに乗っており、上空から見下ろしながら島の大きさなどの確認などをしている。
その値踏みするような視線から、とてもではないが友好的な雰囲気は感じられない。
「下りろ!」
「ブルㇽ……」
背に乗る者の指示に、ペガサスは了承したと言うかのように鳴き声を上げる。
そして、指示通りドワーフ王国へと下降を開始する。
そのことにドワーフ王国の人間は気付かない。
「おいっ!! 何だあれ!?」
「んっ? ……何だ?」
最初に気付いたのは、市民の1人。
鍛冶仲間と共に休日の飲み歩きをしている時、上空に翼の生えた馬が折りてきているのが見えた。
軽く酔っていたといっても、その魔物がペガサスだということはすぐに分かった。
しかし、問題はペガサスなどではなく、その背に乗っている人物の方だ。
ペガサスに乗っている所を見るとその人物の従魔なのだろうが、ドワーフ王国に入るには北と南にある港のどちらかで入国の審査を受けなければならない。
空から入ってはならないとはなっていないが、完全に不法入国というしかない。
「兵に知らせるか?」
「いや、気付いてるみたいだ……」
「じゃあ……、また飲むか?」
「そうだな!」
不法入国に気付いた2人が兵を呼ぶかを話し合っていると、8人程の兵たちが近くの森に降りていくペガサスを追って走って行くのが見えた。
何も知らずに入り込んだようだが、これでペガサスに乗った人間は兵たちに捕まるだけだ。
一応警戒していた2人は安心したのか、また酒を飲みに次の店へと向かっていった。
「よし! ここでいいぞ!」
「ブルㇽ!!」
ドワーフ城の付近の森に着陸したペガサス。
その背から降り立った男は、すぐに地面へと魔力を流し始めた。
「これで良し! お前はここで待機だ!」
「ブㇽ……」
魔力でいくつかの魔法陣を描き出した男は、そのままペガサスに指示を出す。
移動手段としてでなく、他にも役に立ちたいというのに待機の指示を出され、ペガサスは渋々といた感じで頷きを返した。
「おっ? 来たな……」
遠くからドワーフ兵たちが駆け寄ってくる。
それを見て、男は慌てる様子もなく笑みを浮かべる。
「おい! ここはドワーフ王国だぞ!」
「港からの入国以外は不法入国として国外退去をするとなっている!!」
駆け寄りつつ話しかけてくるドワーフ王国兵たち。
一応何も知らずに入った可能性があるため、今の所そこまできつい言い方ではないが、友好的ともいえないような口調で男のことを注意してきた。
「あっそ……」
「っ!! お前!!」
「分かってて入ってきたのか?」
ドワーフ兵たちの忠告に対し、男は興味がないと言うかのように返答する。
明らかにバカにした態度に思えた兵たちは、怒りと共に持っている武器を構えた。
「部下たちを各地へ送ってみたが、俺はここが一番気にいってな……」
「……何を言っている?」
フードを深く被っているため表情は見えないが、口元を見る限り笑みを浮かべながら話しているのが分かる。
急に脈絡のない話を始める男に、ドワーフ兵は訝し気に問いかける。
「俺の島へとさせてもらおうと思ってここへきた」
「何をバカなことを……」
男の言っていることがおかしい。
獣人大陸と魔人大陸に挟まれた場所にあるドワーフ島。
その中に作られたドワーフ王国は多くの魔道具を作り上げ、世界において大きな地位を得てきた。
魔道具の中には、兵器の面でも発達を遂げてきた。
下手にドワーフ王国を敵に回せば、その兵器による攻撃が自国へと向く。
それによって敵からの侵略に対する抑止力としてきたのだが、この男はそのことを分かっていないのだろうか。
まるでこのドワーフ島をもらいに来たというような口ぶりに、ドワーフ兵たちは鼻で笑おうとした。
「ヌンッ!!」
「なっ!!」「っ!!」「くっ!!」
軽く腰を落とし、戦闘態勢に入った男。
その次の瞬間溢れるような魔力を纏い、ドワーフ兵たちを睥睨した。
あまりの魔力に、ドワーフ兵たちは圧し潰されるような錯覚に陥る。
今にも腰を抜かしそうな感覚に陥りながら、ドワーフ兵たちは懸命に男に武器を向ける。
「お前らは私の遊び相手になってもらおう。感謝するがいい!」
凶悪な魔力を纏い、男は余裕の態度でドワーフ兵たちに歩み寄った。
ドワーフ兵たちも魔闘術を発動しているが、それでも男の強が桁違いだということが分かる。
「こ、この数では勝てない!!」
「だ、誰か! 援軍を呼んで来い!」
「りょ、了解した!!」
とてもではないが、ここにいる程度の人間では勝ち目がない。
8人の中で最後尾にいた者に対し、他の兵たちが仲間を呼びに行くように話しかける。
それを言われた最後尾の兵は、すぐに踵を返して町へと戻っていった。
その背を、侵入者の男は平然と見逃す。
「構わんぞ。最近体も鈍っていたところだ。数が多い方が運動になる」
「……舐めているのか!?」
「その通りだ」
仲間を呼びに行ったのを見逃し、仲間の兵が来るのも気にする様子もない。
いくら魔力量が多いからと言っても、その態度は気に入らない。
先頭にいたドワーフ兵は、こめかみに青筋を立てる。
どうやら短気な人間のようだ。
そんなことなど気にならないのか、侵入者の男はしれっと不愉快にさせるような返答をした。
「この……」
「待て! 仲間が来るまで少しでも時間を稼ぐんだ!」
「くっ!」
あまりにも馬鹿にされているため、先頭のドワーフ兵は持っている槍に力を籠める。
今にも襲い掛かりそうな仲間に対し、他のドワーフ兵が止めに入る。
1人でかかって行っても、返り討ちに遭うのが目に見えている。
仲間が来るまでは何もしないで、この男をこの場に引き留めておくのが一番無難な手だ。
止められた者もそれが分かっているので、渋々襲い掛かるのをやめる。
「どうした? かかって来ないのか?」
「……黙れ!!」
腕を組んだまま立ち尽くす侵入者の男。
腹を立てて襲い掛かってこようとしていたドワーフ兵が面白く思い、挑発することに決めたようで、ワザと煽るように話しかけてくる。
そのん名挑発には乗らないように、ドワーフ兵も何とか我慢をしようと男を黙らせようとした。
「遊び前の準備運動をしたいところなのだが?」
「てめえ!!」
「ま、待て!!」
武器も構えず挑発ばかりしてくる。
今ならいくら纏う魔力が多くても一撃食らわせることくらいはできるだろうと、仲間に止められるのも聞かずに、ドワーフ兵は一気に侵入者の男に襲い掛かっていった。
「死ね!!」
「フッ!」
挑発に乗ったドワーフの男が、勢いよく槍による突きを放つ。
全く動く気配のない侵入者へと向かって突き出された槍が、そのまま心臓を貫くと思われた。
しかし、そう思った瞬間にその場から消えたように横へとずれていた。
「ホイッ!」
「がっ……」
躱されたことに気付いた時には、目の前に男の左拳が迫っていた。
当然その攻撃を躱せるわけもなく、ドワーフ兵はその拳が直撃して、膝から崩れるようにして動かなくなった。
「ハハッ! 軽く叩いただけで気を失うとか脆いな……」
「……き、貴様は何者なんだ!?」
あまりの速さに目で追えなかった。
気を失った仲間を、男の前から引きずるようにして安全な場所へと運ぶ。
それを侵入者の男は何もすることなく見ていた。
攻めかかって来ない限り、興味がないといっているかのようだ。
そんな男が何者なのかを、ドワーフ兵は思わず問いかけた。
「そう言えば名乗っていなかったな……」
今更になって名乗るのを忘れていたことを思いだす。
「俺はアマドル。四魔王の一人だ!」
そう言って、侵入者の男こと魔王アマドルは、被っていたフードを取って顔を晒したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます