第138話

「さて、やるか……」


 キュウたちに善貞を任せたケイは、猪の群れから少し離れた所で密かに気合いを入れる。

 数も数なだけに、ケイでも結構骨が折れる作業になるだろう。

 それもあるが、


「う~ん、気分が萎えるな……」


 アンヘル島でも食材として頻繁に狩っていたため、猪たちを倒すのは別にためらいはない。

 ためらうとすれば、うり坊たちだ。


「めっちゃつぶらな瞳してんじゃん」


 魔物の子だというのに、子供の時は普通のうり坊と同じ大きさとか反則な可愛さだ。

 大きくなると見る影もなくなるということを考えると、神様のいたずらにしか思えない。

 そんな可愛い生物を始末しないといけないと思うと、さっきの気合も抜けてくる。

 動物好きのケイからすると、あのうり坊たちに見られたらそうなってしまうのも仕方がない。


「でもしょうがない。やるか!」


 気が引けても、このまま放っておくことはできない案件だ。

 いつものように2丁の拳銃を構えたケイは、再度気合いを入れる。

 そして魔力を全身に纏って、隠れていた木の陰から飛び出す。


「プギャッ!?」


 飛び出した瞬間、一頭の猪がケイの匂いに気が付く。

 しかし、その次の瞬間に意識を失う。

 ケイが放った弾丸が脳天を貫いたからだ。

 頭に穴が開いた猪は、そのまま崩れるように倒れ、全く動かなくなった。


「「「「「ピギャッ!?」」」」」


 急に仲間の一頭が倒れたため、猪たちはその方角に目を向ける。

 猪たちは何が起きたか分からないのか、各々周囲を見渡し原因を探そうとする。

 その間に、ケイはある魔法を完成させていた。


「吹き飛べ!!」


「「「「「っ!?」」」」」


 ケイの声と匂いに気付き、猪たちがそちらを向くと、巨大な火球が目の前に迫っていた。


“ズドーーーン!!”


 火球が着弾すると、爆発を起こし、巨大な爆炎が舞い上がる。

 それに巻き込まれた猪やうり坊は、全身を焼かれ息絶える。

 ケイが放った大爆発球の一撃で大量の猪たちが戦闘不能に追い込まれるが、まだ半分にも満たない。


「おわっ!?」


 中には体を火に焼かれながらもケイに向かって突進してくる猪までおり、ケイは一旦回避行動に移る。

 猪突猛進とはよく言うが、魔物の猪もまさにそれ。

 動き回るケイに向かって、猪たちは列を作るように突進してくる。


「このっ!!」


“パパパパッ……!!”


 追いかけてくる猪たちに対し、ケイは銃弾を連射する。

 先頭を走る者を倒し、勢いを抑えようとしたのだが、撃たれて倒れた仲間よりもケイの始末に集中しているのか、猪たちは先頭を変えてお構いなしに突き進んでくる。


「上等だ!!」


 撃っても撃っても先頭が変わるだけで、減ってるようには全然感じない。

 まるで持久戦を挑まれているかのようだ。


 魔闘術を使っているので、ケイは常に魔力を消費しながら行動しているので、時間がかかればたしかに魔力切れを起こすだろう。

 しかし、ここにいる猪たちを全滅させるまでは十分もつ。

 正面切って殴りかかれば、いくらケイでもあっという間に猪の波にのまれて餌と化すだろうが、銃による攻撃ならそんなことが起きることはない。

 銃による戦いは、攻撃をするたび更に魔力を消費していっている状況だが、少しでも魔力を消費させると言うのが狙いなのだろうか。

 そんなことを思いつくほど頭が良いようには思えないが、正しい作戦かもしれない。

 他の種族の人間だったら、もしかしたら倒せるかもしれないが、ケイはただの人族ではない。

 魔法に愛された種族ともいえるエルフ族だ。

 猪ごときの浅はかな戦略で測れる程度の魔力量ではない。


「オラオラッ!!」


 移動しながら銃の連射攻撃。

 どんなに数が多かろうと、自分がこの程度で魔力切れを起こすとは思えない。

 樹々をなぎ倒しながらも猪たちはケイ目掛けて突き進んでくるが、ケイもお構いなしに弾丸をぶっ放しまくる。


「んっ?」


 少しの間そのままの攻防が進んでいると、猪たちの動きに変化が起きた。

 ケイを追いかけている列はそのままに、もう一つ列ができあがっていた。

 その列はというと、ケイが逃げる方向を止め、挟み撃ちにするかのように動き出した列だ。


「なんか変だな……」


 2列になっても、ケイにはたいした問題ではない。

 右手と左手で、それぞれの列へ向けて弾丸を撃ちまくるだけだ。

 しかし、猪たちのその行動に若干の違和感を覚える。

 たしかに猪は見た目の割には知能の高い生物であるとは言っても、判断力がかなり早い。

 こいつらがやっていることは、まるで何かに指示を受けているかのようにも思える動きだ。

 アンヘル島の猪とは若干種類が違う猪のようだが、それだけでここまで知能に差が出るとは考えづらい。


「……もしかして、変異種がいるのか?」


 変と言えば、そもそもこれだけ大繁殖していることがおかしい。

 それも合わせて考えると、すぐに思いつくのはこの答えだ。

 ケイは全体をパッと見回すが、他と同じようにカモフラージュしているのか、色々な意味で毛色の違う猪の存在が見つからない。


「どこだ?」


 追いかけられながらも銃で仕留め続けるケイ。

 それをしながら、更に探知で変異種がいないか探し続ける。

 ケイを追いかける成体たち。

 うり坊たちは少し離れた所で固まって、戦闘に巻き込まれないようにしている。

 何か他と違うような者がいないか探すが、どこにも見当たらない。

 この周辺のどこかに一頭で隠れているのかと思って、周囲の森にも探知を広げてみるが、全然見つからない。

 周辺に散っていた猪たちが、仲間のピンチに戻ってきているという面倒なことが分かっただけだ。


「地道にコツコツ行くしかないか?」


 銃の攻撃で数は減っているが、総量を考えるとこのままではまだまだ時間がかかることは間違いない。

 強めの魔法で最初の時のように一気に数を減らしたいが、魔力を溜める時間を与えないと言わんばかりに猪が迫って来る。

 これも何者かの指示があるかのようだ。


「まぁ、別に大したことではないけどな……」


“ボンッ!!”


 一言呟くと、ケイはこれまでとは違う攻撃を開始する。

 これまでのような速度の連射ではなく、一撃で数頭を一遍に吹き飛ばすような攻撃にシフトしたのだ。

 この世界の魔法は、イメージによって威力に変わってくるためとても重要だ。

 ケイの銃は、ただ弾丸を撃ち放つだけではなく、魔法のイメージをしやすくするための媒体という側面もある。

 弾丸に変わってイメージしたのは爆撃。

 これまで一発で一頭という高率で倒していたが、今度は当たった魔法が爆発して、当たった猪とその周辺の猪を一遍に行動不能に追い込むような攻撃だ。

 一発の威力を上げて連射速度が下がったが、それでも魔力の消費は減り、数を減らす速度は上がった。


「っ!? そうかっ!!」


 ケイが攻撃方法を変えたのは、この中か、この周辺に隠れているであろう変異種を探し出すための策でしかなかった。

 案の定、ケイの攻撃の変化に、猪たちの様子に変化が起きる。

 とは言っても、更に列を増やして、四方からケイに突っ込んでくるようになっただけだ。

 それでも、ケイに対してかなり効果がある。

 攻撃を躱すことに集中しなくてはならなくなり、ケイの攻撃の手数はグンと減る。

 だが、ケイは猪たちにそうするように指示した者の存在を探知した。

 極々僅かな魔力の放射がされたことを感じ、それによって猪たちは行動に変化が起きた。

 つまりはその魔力を放った者が変異種だということ。

 そう考えたケイは、自分が変異種の存在に気付いたと気付かれないように、とりあえずこの猪たちを仕留めることにした。


「ムンッ!!」


「「「「「っ!?」」」」」


 四方からケイに向かって突進してくる猪たちだが、ケイが一瞬速度を上げたことで姿を見失う。

 ケイがやったのは、一点強化。

 足に魔力を多く集め、そこだけを一時強化し、速度を上げるという方法だ。

 全身に纏っている魔力を足へと移すため、足以外の防御力が一気に落ちる。

 この時に攻撃を受ければ、エルフのケイの耐久力では一発で骨がへし折れるだろう。

 当たり所によっては即死だ。

 諸刃の剣だが効果は高い。

 ケイは猪たちから一定の距離を取ることに成功する。


「ハァーーー!!」


 四列で来た猪たちの列だが、ケイを見失って少しの間同じ場所にとどまってしまう。

 その時間を無駄にするケイではない。

 最初に放った大爆発球を更に魔力を込めて強化する。

 そして、それを猪の集団へと発射する。


“ズドーーーーーン!!”


 込めた魔力が増えたからか、爆発は最初の時より範囲と威力が上がっている。

 それによって猪たちの大半が吹き飛び、塵や消し炭となって朽ち果てる。

 直撃を受けなかった者たちも無事だったものは少なく、死んでいなくても脚を失ったりと動けなくなっている者が多い。


「さてと……」


「「「「「っ!?」」」」」


 成体たちをほぼ壊滅したケイは、今度はうり坊が固まっている方へ向かって銃を構える。

 そして、先程と同程度とは言わないが、大爆発球を放つ準備に入る。

 銃を向けられたうり坊たちは、自分たちも殺られのだとケイを睨みつけ、高い声で威嚇をしてきた。


「まさか、うり坊の姿をしているとはな……」


 魔力を溜めるケイは、うり坊の中の一頭に目を向けて話しかける。

 うり坊の中で、一番ケイから離れた位置にいる一頭だ。

 姿を見せずに指示を出しているのだから、安全な位置にいるとは思っていたが、まさかうり坊の中にいるとは思わなかった。

 初撃以外でケイはうり坊へと探知の目を意識して向けていなかった。

 攻撃開始前の躊躇が、知らず知らずのうちに出ていたのかもしれない。

 それゆえに発見が遅れたのあろう。


【オノレ! ニンゲンゴトキガ!】


「やっぱり念話で指示していたか……」


 ケイが探知した僅かな魔力は、思い当たる所があった為に探知できたことだ。

 従魔のキュウが使っているのと同じ念話の魔法だ。

 僅かな魔力しか使わないので、探知は難しいのだが、キュウと頻繁に話すため慣れていたからか、ケイにはそれが感じ取れたのだ。


「じゃあな!!」


“ズドーーーン!!”


 一言告げると共に、大爆発球を放ってうり坊たちを消し飛ばす。

 これで一応討伐完了。

 ケイは猪たちの死骸をそのままに、キュウたちの所へ向かったのだった。


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